夜明け前



パタリ、ホンの僅かの物音と、微かにも聞こえない足音。
部屋に滑り込んできた彼の白い裸体が、薄闇の中でボンヤリと浮かんでいる。
まだ夜も明け切らぬ暁(アカツキ)の時。
早朝からの任務だと言っていた事を思い出し、見掛けに寄らず律儀・真面目な恋人の姿に、心の中でだけクスリと笑った。
実際に笑い声を上げなかったのは、指一本すら自分の意志で動かせない程に、疲労困憊状態にあったからだ。
薄らと目を開けて、彼のなだらかな背中を見ているだけで精一杯。


多分、私がグッスリと眠っている間に、シャワーを浴びてきたのだろう。
腰にブラウンのバスタオルを捲いただけの姿で、クローゼットの前に立つ、その堂々とした後ろ姿。
シックで落ち着いた色合いが、彼に良く似合っていると思うのは、恋人であるが故の贔屓目だろうか。
でも、この人は派手な色合いも似合うけれども、こうした地味で大人な色味も、不思議と似合う人だった。
まぁ、それを本人に面と向かっては絶対に言わないのだけれども。


シュルリ、滑り落ちたバスタオル。
未だ虚ろな視界に、一瞬だけ露わになった彼の臀部は、ギュッと引き締まって持ち上がり、誰が見ても、鍛えている人のそれと分かる無駄のない流線を描いていた。
直ぐに下着に包まれて、隠されてしまったのが残念に思う程。
ホウッと息を吐く、ゆっくり細く。
人って美しいものを見ると、何故、溜息が零れてしまうのだろう。


「……アリア?」


少しジックリと眺め過ぎたかもしれない。
ピクリとも動けない状態ではあったけれど、視線だけは彼の後ろ姿に釘付けだった。
下着にシャツだけ羽織ったところで振り返ったものだから、その黒いシャツの隙間から見える白い肌が、薄闇の中では余計に眩しく映る。


「目ぇ開いてンな。起きてンのか?」
「……うん。」
「死体みてぇにノビてンのに、目ぇだけギョロっとさせやがって。ちょっとビビったじゃねぇか。」
「私を死体状態にさせたのは、誰よ?」
「俺だな。」


いつもならニヤリと口角を上げる笑みを見せるところを、今日は何があったのか、珍しく苦笑いを浮かべた彼。
ポリポリと頬を指先で掻き、それから、ドカリとベッドの縁に座る。
頬を掻くクセは、知っているの。
稀に見せる、彼の照れ隠しの仕草だって。


「いつもなら爆睡してるクセに、今日はどうした?」
「どうしたって聞かれても……。ただ目が覚めただけで。」
「なら、もっかい寝ろ。疲れてンだろ。まだ起きるには早過ぎる時間だ。」


音もなく伸びてきた手が、うつ伏せたままの私の髪から背へと優しく撫でる。
触れているのか、いないのか、分からないくらいに軽く、優しく。
一瞬だけ、その指先の感触に、身体の奥に沈んだ熱が、また浮かび上がりそうになったけれど、それ以上に、そのゆっくりとしたリズムの心地良さが勝って、ズルズルと夢の世界へと引っ張られていく意識。


「おやすみ、アリア。イイ夢、見るンだぜ。」
「ん……、デス……。」


夢と現実のギリギリの境目で、不意に理解する。
今朝のように、早朝の任務に当たる日は、目が覚めると彼の姿は当然になくて、いつの間に出ていったのか、私には、まるで分からなかった。
逆に、夜勤警護明けで朝方に帰宮した時は、目覚めると隣に彼の寝顔があって、いつ帰ってきたのか気付けなかった。
いつもいつも、私を起こさないようにと気遣っていたのだ。
さっき、音を立てずに着替えていたのも、きっとそう。


残忍で冷酷、慈悲のない、殺戮好きのサディストなんて言われているとしても、私はこんなに愛情深い人を知らない。
こんなにも大切に労ってくれる人も、その分、激しく愛を仕掛けてくる人も。
私は、彼にとっての大切な存在だと自惚れても良い、そう思わせてくれる程に深い優しさに包まれて。
彼の傍にいれる唯一の女である幸せを噛み締めながら、再び、深い夢の世界に沈んでいった。



今更に気付く、彼の優しさ



‐end‐





夜明けの薄闇の中、無防備に着替えをするデスさんの後ろ姿を、無性に書きたくなっただけとか言いますw
均整の取れた芸術的マッチョが、ボクサーパンツにシャツだけ羽織った姿に、物凄く滾るのは私だけですかね(苦笑)

2014.07.10



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