今夜はスペシャルナイト



その夜。
シックで粋な服装に身を包んだデスマスク様は、約束の時間のキッカリ五分前に姿を現した。
そのビシッと整えられた身なり、洗練されたスタイルを見て、私はただただ驚いたものだ。
多分だけど、薄く唇も開いていたんじゃないかと思う。
ポカンと、そんなおバカ面で、彼の頭のてっ辺から爪先まで不躾なまでにジロジロと視線を走らせた。


お洒落には疎い私でも、一目でそれと分かる、仕立ての良い高級ブランドのスーツ。
まるでオーダーメイドかと思える程に、身体にピタリと合っていて、彼の元々のスタイルの良さと足の長さとが際立ち、悔しいけれど物凄く格好良い。
それよりも何よりも。
普段は典型的なイタリア男らしく、シャツのボタンは不必要に開けられて、ダッポリとしたパンツを好んで履いている姿は、パッと見、何処ぞの怖いお兄さんかと思えるくらいの(寧ろ、そうとしか見えない)デスマスク様が、だ。
いともさり気なく、そして、当たり前の如くスマートに夜会用のスーツを着こなしているんだから、唖然とするのも当たり前だ。


だが、その時、驚きで唖然としたのは、私だけではなかった。
そのデスマスク様自身が、私の姿を見て酷く驚いたように目を見開いていた。
と言っても、それも一瞬。
直ぐに彼の表情は、いつもの怖い怖〜いお兄さんの、ご機嫌斜めなお怒り顔に変化する。


「オイ、アリア。」
「は、はい。何でしょうか?」
「何でしょうか、じゃねぇ。なンで、ンな格好してやがる?」
「え、だって今夜はパーティーだと、そう仰ってませんでした?」
「オマエ、分かっててヤってンのか? メイド服でパーティーに出席するってな、どンな仮装パーティーだ、言ってみろ、アリア。」
「え? で、ですが……。」


私達、城戸家のメイドは基本、沙織お嬢様にお仕えし、お嬢様に付き従う。
それでも、時折、日本に滞在する黄金聖闘士様のサポートをするために、彼等に従う事もある。
それも全ては、お嬢様の命令によるものだ。


今日の午前中。
ヒョロっと姿を見せたデスマスク様は、お掃除中の私を呼び止めて、こう言った。
今夜はパーティーだ、オマエも来い、と。
だから、私は彼のお供として付き従うのであれば、やはり普段と同じようにメイド服で行くのが相応しいと思ったのだけれど……。


「俺が、いつオマエを供として連れてくっつった?」
「……え?」


細めた紅い目には怒りの色が浮かび、脅すような低い声で問い掛けてくるデスマスク様。
でも、私には彼の言いたい事がサッパリ分からず、キョトンと見返すしかない。


「大体、この俺が、連れもなしに一人でフラッとパーティーなんざ出るかっての。あ?」
「は、はぁ……。」
「あぁ、面倒臭ぇ! もうイイから、そのまま来い!」 
「え、ちょっと?! え、デスマスク様っ?!」


問答無用で手首を強く掴まれて、そのまま私をズルズルと引き摺って歩き出す。
強く握られた手首が痛いと言おうが、何処に行くのかと問い掛けようが、デスマスク様に聞く耳などは既になく。
私は縺れた足を何とか交互に繰り出しながら、ズンズンとお構いなしに進む彼に、必死でついていくのが精一杯だった。





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