ショートカット



秋の風に吹かれて揺れるアリアの髪が、ある日、突然、短くなっていた。
それまで、クセのない真っ直ぐな黒髪が肩先に揺れていたのをバッサリといってしまい、今は露わになった白い首筋を、斜めに傾く秋の陽が照らしている。
一体、なンの心境の変化か?
失恋か?
いや、そんな話は聞こえてこねぇし、大体、好きな男がいるって話も聞いた事すらない。
ま、タダの気紛れだろ、なんて思いつつ、アリアの背後に近寄った。


「きゃっ?! な、何っ?! 誰っ?!」
「誰って、俺だが?」


背後に忍び寄ると同時に、白いその首に浮かぶ窪みに、人差し指をそっと這わせると、文字通り『飛び上がって』驚いたアリアの姿が、あまりにおかしくて笑ってしまう。
全く、コイツはいつもいつも、からかい甲斐がある。
真っ赤になって振り返ったアリアは、焦りと怒りをゴチャ混ぜにして揺れた瞳で、俺を見上げた。


「相変わらず隙だらけだな、オマエ。」
「で、デスマスク様?! 何をなさるんですか!」
「そりゃ、オマエが首を丸出しにしてるから、触ってやっただけだろが。」
「誰も触ってくれなんて言ってません!」
「そうかぁ? 俺には、そう訴えてるように見えるンだがな。」


ニヤリ。
口の端に笑みを乗せて見返してやると、頬の赤味が更に増すのが面白くて、ついついやめられなくなっちまう。
あぁ、俺はこうしてコイツに魅せられてンだな。
って、ちょっと意味違ぇかもだが。


「で、なンで髪切ったよ?」
「別に特に意味は……。気分的なもの、でしょうか。」
「てコトは、やっぱ俺に触られたくて……。」
「ないです! 絶対にないです!」
「嘘吐け。違うってンなら、そンな敏感な首筋、俺の目の前に晒すかよ。」


ワザと自意識過剰な物言いをしてみせると、案の定、言い返そうとしても言い返せなくて、口をパクパクさせるばかりのアリア。
超おもしれー。
こうまで俺の悪ふざけに反応してくれるヤツもいねぇから、調子に乗って言い過ぎちまうんだよな。
最終的にはサガ辺りに怒られンのが分かってンだが。
まぁ、それも、いつもの事って訳で。


「それとも、アレか?」
「アレ、とは?」
「触るよりも、キスが良かったか?」
「……は?」


何を言われてンのか分からねぇのか、唖然としたまま真ん丸な目を向けて俺を見上げるアリア。
クックックと笑う俺の様子に、やっと何事かを理解した途端。
熟れたトマトみてぇに真っ赤な顔で逆上したアリアが、何かを言い掛けて口を開いた隙を狙って、その唇を奪ってやった。
勿論、俺自身の唇で。


「っ?! なっ?! ななな……!」
「お望み通り、キスしてやったぜ。って、口じゃなくて、首筋が良かったンだったか?」
「ど、どど、どっちも違……、あっ!」


動揺し捲くりで訳が分からなくなってるアリアの肩を引き寄せ、今度は露わになった白い首筋にキスを。
チュッと軽いリップ音が響いた瞬間、タバスコでも一気飲みしたかのようにボッと肌を赤くしたアリアの耳の縁に指を滑らせ、俺はニヤリと口の端に浮かべた笑みを深めていた。



結局、どっちもして欲しかったンじゃねぇか



「ど、どうしてこんな事するんですかっ、デスマスク様っ?!」
「どうしてって、なぁ。そんな敏感な首筋見せ付けて、ヒラヒラ歩いてるオマエが悪ぃに決まってる。」
「わ、私のせい?!」


俺がオマエばかり、からかう理由が『何』なのか。
それくらい気付けっての。
鈍いよな、全く。



‐end‐





ネタが降って湧いたのでゴソゴソ書いてみましたな蟹氏。
我が家の蟹氏は基本的に常に余裕綽々な大人蟹なんですが、今回は「好きな子にはちょっかいを掛けて気を惹きたくなる」どこぞの小学生みたいな蟹に仕上げてみました(苦笑)
何かやっぱり、こんなの蟹氏じゃない気がします^^;

2012.09.13



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