一夜の過ち



きっかけは小さく折り畳まれたメモ。
横を通り過ぎ際に、ポイッとデスクの上に投げられた『ソレ』は、私だけが見るようにと密やかに書かれたもの。
まさか、聖域一のプレイボーイと名高いこの人が、こんな古典的な方法でアプローチしてくるなんて。
それこそ思いも寄らなかった。


そして、それ以上に、深く興味を惹かれてしまった。
だからだろう。
メモに書かれた指示に従い、彼の宮を訪れる事に何の躊躇も覚えなかったのは。


「んっ……。」


訪れた巨蟹宮のプライベートルームは、灯り一つなく、真っ暗な闇に包まれていた。
人を呼び出しておいて、留守とは何事だろう。
こっそり渡されたメモと、そこに書かれた流麗な文字、シンプルで簡潔な誘い文句。
物珍しさに、ついつい心動かされてしまったけれど、結局、私をからかっただけだったんだわ。
馬鹿みたい。
そう一人ごちて、そそくさと踵を返す私。


だが、その部屋から退出する事は叶わなかった。
その腕に捕らわれたのは、振り返った瞬間。
いつの間にやら私の背後を取っていた『彼』に、しっかりと抱き竦められ、動きを封じられてしまったのだから。


「で……、デスマスク様っ?!」
「おう。約束通り、ちゃんと来たな、アリア。」


暗闇の中、僅かに漏れ入る微かな光を受け、その独特な紅い瞳が爛々と輝く。
そして、口元にニヤリと浮かんだ不敵な笑み。
目を凝らさないと人影一つすら見えない闇の中で、どうしてこの人は、こんなにも圧倒的な存在感を見せつけるのだろう。
そこに彼が居るというだけで、自分が逃避不可の蜘蛛の巣の中に、深く絡め取られた事を理解するのだ。


「や、止め……。デス、マスク、様っ……。」
「は? 何言ってンだ、アリア? ココに来た時点で合意の上だ、違うか?」


違わない。
確かに、彼の言葉は間違っていない。
少なくともココに来ると言う事は、その先に待つ行為までも期待した上での行動。
つまり、彼は私を誘惑し、私はその誘いを受けた。
言い換えれば、『今夜、彼とベッドを共にしたい。』、そう望んでいたという事。


気が付けば、抵抗する身体を軽く持ち上げられ、弾力のある柔らかな場所へと押し倒された。
広さからいってソファーではない。
ベッドの上に、彼の身体ごと押し付けられたのだ。
片手に握り込んだ両手首を、しっかりと拘束されたままで。


「離して、くださ……。デス、マスク、様……。」
「断る。」
「どうしてっ?」
「今夜はオマエと寝る、この身体を抱くって決めてるからな。終わるまで、離しゃしねぇよ。」
「あ、んっ……。」


それからは、ただ大きな波に飲まれ、何処までも流されるばかりだった。
抵抗なんて、聖闘士の彼が相手では何の意味もない。
いとも簡単に服を剥ぎ取られ、思うままに身体中を探られ、確かめられて。
手で、唇で、肌で、彼の身体の全ての部分で。
敏感なところを執拗に攻められ、私は身悶えして、迫り来る歓喜の波に耐えるしかない。


震える手でシーツを握り締め、逞しい胸板を押し返し。
それでも、私の身体を押し潰さんばかりに圧し掛かり、深い深い場所へと押し入ってくる欲情の熱い塊から逃れる事は出来ず、結局は全てが彼のものとなった。


「あ、ああっ! あっ!」
「凄ぇイイぜ、アリア。最高だ。」
「やめっ……、あっ! お、おねが、い……。あ、ああ……。」
「止めれるワケねぇだろ。それとも、本気で止めてイイのか、アリア? オマエはそれで平気なのか?」
「だ、駄目……、駄目、駄目っ! で、デス、様っ! や、止め、ない……、でっ!」


身体だけでなく、言葉でも囚われて、私は全ての逃げ道を失う。
ただ流されるままに、何処までも溺れていくしかない。
そう悟った後は、彼の激しさに全てを任せ、身体の奥底からガクガクと昇り来る歓喜に、私はひたすら打ち震えるばかりだった。



一瞬の快楽のために、失ったものは大きくて



彼の恋人になれるのなら、何も怖くないのに。
彼が持ったのは、一過性の興味。
彼にとっては、気紛れな遊び。
そう、ただ一夜だけの関係と分かっているから、こんなにも苦しく、悲しいの。



‐end‐





『悪い男・デス氏』みたいな感じで、ティーンズERO漫画にありそうなネタにしてやろうと思ったんですが、書き上がってみたら、蟹氏がただの下半身要員でしかなかったとかいう(死)
これをドリ夢と言って良いのか、激しく疑問です(苦笑)

2012.07.05



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