悪友からの贈り物



――トントントン、カタッ、カチャ……。


キッチンから聞こえる物音で、俺は目を覚ました。
まだ瞳を閉じたままだったが、窓から燦々と差し込む朝日が、瞼の裏に眩しく感じられる。
これが普段であれば『爽やかな朝』とでも言えるンだろうが、生憎、今朝の俺はそンなモンとは無縁の最低最悪な状態。
正直、今は起き上がるよりも二度寝がしてぇ、それが本音だ。


ハッキリ言ってしまえば、アレだ。
今朝の俺は、強かにガッツリと二日酔いだった。


昨夜は――、と言っても、つい数時間前の事だが、シュラと二人でシコタマ飲んだ。
途中まではアフロディーテの野郎も居たンだが、日付が変わると直ぐに双魚宮に戻っちまったため、その後はシュラと二人、調子に乗って煽り酒。


今日が俺の誕生日という事もあり、祝いの酒だと称して持ち寄った酒を片っ端から空けてやった。
そして、アホのように飲み捲った。
まるで酒を覚えたてのガキのようだが、タマには羽目を外すのも悪かねぇなンて思っちまったのが運の尽き。
良く良く考えりゃ、誕生日に男と二人きりで飲み明かすなンて、最悪にしょっぺぇ話じゃねぇか。
しかも、この酷ぇ二日酔い。
今頃、後悔しても遅ぇが、バカをやったと自分でも思う。


――カチャカチャ、ジュワッ!


お?
なンか凄ぇ良い匂いがしてきたぞ。
そういや、さっきからキッチンで物音がしてるが、シュラが朝メシでも作ってンのか?
だったら、余計にしょっぺぇ話だぜ。
まさか、この俺様が、男と飲み明かした挙げ句、その男(しかもマフィアの幹部にいそうな強面三白眼の男)にメシまで作ってもらうなンてな。


俺は仕方なく重い身体を起こし、嫌々ながら瞼を開いた。
日光の刺激を恐れてゆっくりと開いたにも係わらず、強過ぎる光に目が眩む。
朝日っつーのは、無意味に暴力的だ。
タダでさえ頭ガンガンして辛ぇってのに、これはないだろう。
身体が灰になって、吹き飛んじまいそうだ。


――ジュー、ジュー……。


キッチンから漂ってくるのは、微かな肉の香り。
このジワジワとジックリ焼けていく音と良い、ベーコンエッグでも作ってンだろうか?


「オイ。俺の好みは半熟だぞ。焼き過ぎたらタダじゃ済まねぇからな、シュ――、っ?!」


酒の匂いを身に纏い、フラ付く足取りでキッチンに入る。
固焼きの目玉焼きが好きな悪友に、指図の一つでもしてやろうと思ってたンだが……。
痛む頭を上げ、視線を向けると、そこにいたのはシュラでもマフィアでもなく、なンと俺の『意中の女』。
あの華奢な背中の線は、最近、教皇宮の女官になったばかりのアリアの後ろ姿。
例え二日酔いだろうと、その後ろ姿だけは絶対に間違えねぇ。
それは他の誰でもなくアリアだった。


「アリア? なンでオマエがココに……?」
「あ、デスマスク様。おはようございます。」
「おはよう、じゃねぇ。なンでココにオマエがいンだって聞いてンだよ、答えろ。」
「いや、その、小一時間程前にシュラ様が私の家を訪ねていらっしゃいまして。で、デスマスク様がお酒で死亡してるから、朝食でも作りに行ってくれと、そう頼まれたんです。」


あの仏頂面が、そンな事を頼んだ、だと?


そうかそうか。
流石に男二人のバースデー飲み会じゃ、あまりに俺が可哀想だと気を遣ったって事か。
ラテン系とは名ばかりの硬派なスペイン人の割には、イイ仕事してくれンじゃねぇの、シュラさんよ。


「で、アリアはその頼みを快く引き受けて、俺のためだけにメシを作ってたってワケか。」
「快くと言うか、たまたま今日はオフでしたし。」


話しながらフライパンの蓋を開け、焼け具合を確認するアリア。
香ばしく焼けたベーコンの匂いと、艶やかにプルンと焼き上がった卵の表面が食欲を誘う。
二日酔いの筈だってのに、嗅覚と視覚からの刺激で不思議と食欲が湧いてくる。


「半熟か、そのベーコンエッグ?」
「勿論です。私は半熟派ですもの。」
「奇遇だな、俺もだ。」


嬉しそうに微笑むアリアを目の前に、食卓テーブルに着く。
それは、好きな女の向かい側で、その女の手料理を食べるという、俺には何処までも不釣り合い過ぎる健全な朝の光景。
だが、例え、まだ俺とアリアが付き合っていなくとも、好きな女と過ごす朝のひと時ってのは良いモンだ。
そンな事、ガラにもなく思ってしまった自分がいた。



爽やかな朝ってのも悪くはない



半熟の薄い膜にフォークを突き立てると、白身の上にトロリと蕩け出て広がる鮮やかな黄身のイエロー。
仄かな胡椒のスパイシーな香りと、口に含んだ時のベーコンの塩味が絶妙だ。
俺好みの女が作る、俺好みのベーコンエッグ。
何処までもホノボノとした朝の光景。
目付きの悪い悪友が与えてくれた誕生日プレゼントは、信じらンねぇ程、予想外に俺の心を満たしてくれていた。



‐end‐





2012.6.24
はっぴーばーすでい、デスさん!

山羊さまと二人きりのしょっぱい誕生日で終わらなくて良かった!(書いたの私;)
来年も変わらずお祝い出来たら良いな^0^

2012.06.24



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