思い出す度に、ただ苦な思いばかりが胸を満たす、そんな一年前の誕生日。


今、俺は一人きりで、窓から外を見ている。
自分の宮ではない、アテネ市街の小さなカフェで。
この日、あの場所にいると、柄にもなく、どうにも胸が苦しくなるのが嫌で、逃げるように外へ出てきた。
そして、ブラリと入った、この店。


コーヒーの苦さが、更に嫌な気持ちを煽った。
失敗したな、コーヒーなんて頼むんじゃなかった。
甘いケーキでも食って、気分を紛らわすか?
だが、自分の誕生日に一人でケーキ食ってるなンて、アホらし過ぎンだろ?
無意識の内に、溜息が唇から零れていた。


未だに、こんなにも胸に痛く残っている、あの日の別れ。
だが、後悔した事など一度もない。
やっぱりというか、思った通りに命を落とした俺は、聖闘士の風上にも置けない最低のヤツだと貶められた。


あのまま、アリアが俺の女として聖域にいたとしたら……。
アイツは、どんな惨い仕打ちを受けていたか分からない。
粗暴な雑兵にでも、乱暴されてたかもしンねぇし。
それを思えば、あれで良かったんだ。


だが――。


こうして生き返ってみれば、まだアイツの記憶が消えないままに、心が二人で過ごした日の思い出を辿っちまう。
曇り空になる度に、アリアの悲しく揺れ動く瞳が、勝手に蘇ってくる。
この腕はアイツの感触を覚えていて、身体は愛した熱を忘れない。
冷める事のない温もりは、残酷に胸を抉るばかりだ。


俺はもう一度、この命が終わる、その時が来る日まで、アイツの記憶から抜け出せないのか?
それが報いか?
邪悪を貫いた俺の、アリアの心を傷付けた身勝手な俺への。


カップに残ったコーヒーを一気に飲み下すと、ガチャッと乱暴にそれを受け皿に戻した。
人気の少ない平日のカフェでは、思った以上に音が響いて、店の中にいた数人が、その音に振り返る。
条件反射で睨み返した。
そんな事しても、何の意味もないと分かっているのに。


溜息を吐きつつ、外へ出る。
空を何処までも覆う灰色の雲は、今にも泣き出しそうな気配を醸し出しているのに、ギリギリまで粘っているのか、なかなか雨は降ってこない。
いっそ泣き出しちまえば、良いのによ。
そしたら、俺の心も少しは楽になるかもしれねぇ。
降りそうで降らない曇り空は、俺の世界を鈍色(ニビイロ)に変えちまった。



記憶に刻まれた傷は、ずっと消える事のない哀しみの色



仕方ない、聖域に帰るか。
迷惑極まりないお祭り好きの嬢ちゃんが、可哀想に執務当番のヤツ等を引っ張りまわして、パーティーでもしようと画策してたみてぇだからな。
気付いてねぇフリして、乗っかってやるか。
たまには悪くねぇだろ、そういうのも……。



‐end‐





生誕記念夢だというのに、何故か悲恋です(滝汗)
いや、ほら!
甘い夢なら、他の方が書いて下さるでしょうし、ここは得意分野でいこうと思いましてですね!(言い訳か)
祝う気あンのかコンニャローと、蟹さまにお叱り受けそうですが、これでも愛してるんだよ、デス様!
お誕生日おめでとう!
ずっと大好きです、蟹さま!

2008.06.24



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