お願い、分かって。
貴方は貴方のままでいて欲しいの。



あなたのリズム



どうしてそんなに気を遣うの?
今も、そう。
貴方は私の事ばかり気にしている。


「大丈夫ですか、アデレイド? もう疲れたでしょう。そろそろ休みましょうか?」
「…………。」


久し振りに、ムウと二人で遊びに来たアテネ市街。
以前は頻繁に、こうして二人で買物に来たけれど、それは私達が、まだお友達だった時の話。
こうしてお付き合いをするようになってからは、今日が初めての聖域外デート。
それでも私達の関係は、以前とは変わらないし、違うところと言ったら、距離が少しだけ縮まったぐらい。
なのに、ムウってば、おかしいの。
必要以上に、私に気を遣ってくる。


「アデレイド、そろそろお腹が空いた頃でしょう? ランチは何にしましょうか?」
「…………。」


私は、そんなムウが気に入らない。
彼の態度も、不必要な気遣い方も。
だから、次第に無口になってしまう。
すると、ムウは益々、気を遣い、私の事ばかりアレやコレやと気に掛ける始末。


「どうしたのです、アデレイド? もしや体調不良ですか? ならば、もう戻った方が良いのでは……。」


違う!
違う、違う違う、違う!
そうじゃない、そうじゃないの!
どうして分からないのよ!!


以前のムウは、こんな風に私に気を遣ったりしなかった。
普通に接して、普通に笑って、何事も対等な二人だったのに。
お付き合いを始めて、彼は変わってしまったみたい。


「……ふ、ふえぇぇぇっ。」
「なっ?! ど、どうしたのです、アデレイド!? 何を急に泣く事があったのですか? 私、貴女に何かしてしまいましたか?」
「うっ、うっ……。ち、違うの、そうじゃなくて……。ふえぇぇ……。」


私が好きなのは、こんな気遣い屋のムウじゃない。
何で私の事ばかりを気にして、アレコレと考えてしまうの?
もっと自然な貴方でいて欲しい。
私は以前と変わらない、マイペースなムウが好きなの。
ちょっと強引で、ちょっと我が儘で、ちょっと意地悪で。
でも、とてもとても優しい貴方が。


「ねぇ、ムウ。どうして、そんなに気を遣うの?」
「……え?」
「嫌だよ。そんなムウは、私は嫌い。」


俯いて涙を拭いながら呟いた私の顔を、ムウが疑問符をいっぱい浮かべて覗き込む。
私は恥ずかしくて顔が真っ赤に染まっていくのを感じていたけれど、勇気を出して、シッカリと彼の目を見た。
気持ち、ちゃんと伝えなきゃ!


「私に合わせなくて良いの。前と同じ、自分のペースでいて欲しい。」
「??」
「私はね、ムウが作る雰囲気が好き。ムウの刻むリズムが好きなの。でも、今は違う。」
「……アデレイド。」
「私にとって、貴方がマイペースに刻むリズムが一番、心地良いの。だから、そのリズム、崩さないで。いつもと変わらないムウの、貴方の傍にいさせて、お願い。」


驚きで目を見開いたムウが、ワンテンポ置いて、フゥと大きな息を吐く。
大きな手で額を押さえたかと思うと、次いで、彼はクスクスと笑い出していた。


「……ムウ?」
「私はね、アデレイド。貴女が思っている以上に、貴女の事が好きなんですよ。」
「え……、な、何? 恥ずかしいよ、ムウ。何が言いたいの?」
「ですから、私はアデレイドの事が大好きで仕方ないのです。でも、私は自己中ですからね。それが原因で、貴女に嫌われるのが怖かった。だから、自分でも気付かぬ内に、貴女に嫌われまいとしていたのでしょう。でも、アデレイドがそれで良いと言うのなら、もう止めましょう。私も疲れました。」
「……う、うん! うん!」


再び涙が零れてきたけど、ムウが優しく拭ってくれる。
温かい指先に、触れた部分がジワリと熱を持つ。


「じゃあ、行きましょうか、アデレイド。ランチは私が決めますよ。良いですね?」
「勿論!」


少しだけ強引に引き寄せられて、ギュッと握り締められる手。
大好きな彼と手を繋いで歩き出した私は、久し振りに感じるムウのリズムに、これ以上ない幸せを感じていた。



‐end‐





記念すべき短編一発目です!
良かった、ちゃんと書けましたw
私の中で羊様は、かなりの自己中・マイペースさんです。
夢主さんは、そこに惹かれたって事で。
以上、拙い文章でゴメンナサイ。

当初:2007.03.25
加筆修正:2014.02.04



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