舞い散る花弁の中、
あの日の君が遠い。



いつか、この腕の中で



そう、あれは五年前の事だ。
忘れられない、あの日の事は、今でも俺の記憶の中に、鮮やかに浮かび上がる。


「アイオリア……。私、捨てられちゃった……。」
「っ?!」


大粒の涙をポロポロと流しながら、俺のところへと駆け込んできたアデレイド。
刹那、その真珠のように美しい涙で飾られた蒼い瞳に、深く強く心が惹かれてしまったのを、今でもハッキリと覚えている。
だが、不器用な俺は、どうやってアデレイドを慰めれば良いのか、どうすれば彼女の気が済むのか、掛ける言葉の一つも見つけられずに、ただ横にいて、ポツリポツリと紡がれる話を聞いてやる事しか出来なかった。
その間、アデレイドをこんなにも悲しませ、こんな風に泣かせたアイツに対して、酷く腹を立てながら。


「どうしてだろう? 私の何が悪かったのかなぁ?」
「それは……。」


何も悪い筈がない。
悪いのは全てアイツ、アデレイドをこんなにも泣かせたアイツの方に決まっている。


何故、こんな短い言葉すら言えなかったのか。
多少なりとも、彼女の心を慰める程度にはなっただろうに、俺は本当に馬鹿だ。


全てを話し、何もかもを打ち明けたアデレイドは、少し落ち着いてきたのだろう。
白く華奢な手の甲で、瞳に溜まった涙と、頬に残る涙の雫を無造作に拭い取った。
本当は、俺がこの手を伸ばして、その涙を拭って上げたかった。
だが、出来なかった。
彼女に触れる勇気が、俺にはなかったのだ。


精一杯、強がりの笑顔を浮かべて微笑み掛けてくるアデレイドの姿が、とても健気で、返って胸が痛む。
そして、何もして上げられない自分の不甲斐なさと頼りなさを、何よりも嫌悪した。
だからこそ、強く願った。
いつかアデレイドを強く抱き締められるような、この腕の中で彼女を守れるような男になりたい、と……。


だが――。


今、目の前では、この目に眩しいカラフルなフラワーシャワーが舞っている。
風に踊る、色とりどりの花弁達。
目が霞む程の花弁と、家族や友人達の祝福に包まれて、幸せそうに微笑むアデレイド。
純白のウェディングドレスを纏ったアデレイドの横には、アイツの姿、
彼女の華奢な腕を取り、二人共に同じだけの幸せに満たされた表情をしている。


あれから五年。
困難を乗り越え、共に歩く道を選んだ二人。
柔らかな日差しの中で、永遠の愛を誓ったアイツとアデレイド。


結婚式の鐘の音が、初夏の風に乗って厳かに鳴り響いている。
大勢の笑顔に見守られたアデレイドは、とても幸せそうだ。
誰もが二人の幸福を願い、歓喜し、華やいでいる中、ただ俺一人、偽りの笑顔で彼等を見守っている。
胸の奥に、どうする事も出来ない痛み、切ないまでに締め付ける苦しみを抱えて……。


伝えられなかった想い。
言葉に出来なかった気持ち。
そのどちらも心の中で消化する事が出来ずに、俺を苛み続けている。
二人が幸せそうに笑えば笑う程、辛くなるばかりだ。
幸せの色に染まった今日という日の中で、俺だけがアデレイドの幸福を願う事が出来ない。


この気持ちを、どうすれば良いのだろうか。
届く事のなかった想いを、何処に捨てよう。
この腕の中に抱き締める女性はアデレイドなのだと、そう決めていたのに……。


ワアッと一際大きな歓声が上がり、階段の上に立つアデレイドの後ろ姿が見えた。
綺麗な放物線を描いて投げられたアデレイドのブーケが、太陽の光に目映く輝いていた。



‐end‐





突発的に思い付いて書いたリアの失恋夢です。
華やいだ楽しい空間の中で、一人くらいは辛い思いを抱えている人がいても良いのではないかと思いまして。
伝えられずに終わる恋は、リアが一番似合いそうね、なんてスミマセン;
ちなみに『アイツ』は、お好きな黄金兄さんで想像してください。
私のイメージではミロでしたw

当初:2007.05.17
加筆修正:2014.03.09



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -