闇のリズム的ラブラブクリスマス



昨夜からギリシャには珍しいクリスマス寒波が、この地を襲い、この聖域でも吃驚するくらいの低気温を観測した。
寒さに澄んだ夜空を見上げながら、長い十二宮の階段をのんびり下っていると、真っ暗な空からは、チラチラと淡い雪の粒が落ちてくる。


「シュラ様、雪です。」
「あぁ、珍しい。聖域では、何年振りだろうな。」


そう言いつつ、私の前に手を差し出すシュラ様。
最初は、その意味が分からず、立ち止まって彼の顔をマジマジと見つめてしまった。
が、直ぐに意図するところに気付き、慌てて手袋を脱いで、自分の手を差し出した。


ギュッと必要以上に強く握られた私の右手は、シュラ様の大きな左手にスッポリと包まれ、そのまま彼のコートのポケットの中へ。
それまで、シュラ様の手が入っていたからか、ポケットの中はフワリと温かく、手袋を着けているよりも、ずっと心地良い温もりを感じた。


「寒いですね。」
「あぁ、寒いな。」
「でも、温かい。」
「帰ったら、もっと温かくしてやる。」
「もう! シュラさまったら、いつもそればっかり!」


もう片方の空いた手で、突き飛ばすように彼の身体を押したが、当たり前にビクともせず、その顔にはニヤリと不敵な笑みが浮かぶ。
私は拗ねた振りをして、そっぽを向き、溜息を吐いた。
すると、ハアッと吐いた息が、真っ白に変わる。
それが珍しくて何度も繰り返していると、隣を歩くシュラ様がフッと小さな笑みを零したのが分かった。


今年のクリスマスは、双魚宮でパーティーを開いた。
女神アテナのいる聖域でクリスマスだなんて不謹慎かもしれないけれど、彼等三人は口実を付けて飲みたいだけなのだ。
毎年恒例行事となっているクリスマスパーティーという名の飲み会、去年までは巨蟹宮で開かれていたのだけれど。
今年は私がシュラ様のところへ異動してしまった事、そして、上の宮のアイオリア様達への配慮から、場所が双魚宮に変わっていた。


「別に磨羯宮でも良かったんですけど……。」
「言っただろ。いつもアンヌを働かせてばかりだから、アフロディーテが気を利かせてくれたんだ。」


そう、巨蟹宮時代のクリスマスと言えば、いつも三人の給仕で、てんてこ舞いだった記憶しかない。
お料理を作って、運んで、お酒を用意して、運んで、片付けて、洗い物をして、その繰り返し。
それを思えば、今年のパーティーは本当に楽しかった。
デスマスク様とシュラ様の用意したお料理は、最高に美味しかったし。
アフロディーテ様のテーブルセッティングも、お部屋の飾り付けも、とても素敵だった。


そして、珍しい事に、今年はミロ様もココに参加する事になり、いつもの飲んだくれ三人による危険で卑猥な会話もなく、とても楽しい時間が過ごせた。
デスマスク様の恋人さんと、アフロディーテ様のところの女官さんと、ミロ様の恋人さんと、女性四人の女子トークも盛り上がったし。
こんなに楽しんでしまって良いのかと、心苦しく思えてしまうくらいに楽しんだ。


「シュラ様も楽しめましたか?」
「あぁ、男は男同士、なかなか有意義な話が出来た。」
「どうせ、またエッチな話ばかりしてたんでしょう?」
「分かっているなら聞くな。」


やっぱり……。
何やらコソコソと声を潜めて話しているかと思えば、上機嫌に笑って乾杯しだしたりして、怪しいと思っていたのよね。
でも、私達も普段の鬱憤と言わんばかりに、相手の我慢ならないところの暴露大会なんてしてたんだから、彼等を責められないと目を瞑っていたけれど。


「また変な知識、デスマスク様にでも吹き込まれたんじゃないんですか?」
「さぁな。」
「さぁって。私は嫌ですからね。ノーマルじゃない事は、絶対にしませんからね。」


詰め寄る私など軽く流して、シュラ様は何処吹く風だ。
聞く耳を持たないシュラ様が、少しだけ歩調を早めたせいで、バランスを崩してワタワタとする私。
気が付けば、磨羯宮が目の前に迫っていた。


「さてと。これからが俺達のクリスマス本番だ、アンヌ。」
「え……?」
「アンヌに、まだプレゼントを渡していなかっただろう。さっき、ミロに頼んでいたものを貰ってきたんだ。」
「プレ、ゼント……、ですか?」


何だか、嫌な予感がヒシヒシと。
いつもながらに、こういう時の予感は外れない。
きっと、また際どい下着とか、大人の玩具みたいなのとか、そんなものに違いないわ。


「夜は長いぞ、アンヌ。シャワーを浴びたら、ゆっくりと楽しもう。明日の朝まで、な。」
「や、そんな朝までなんて、絶対に無理で――、んんっ!」


繋いだ手が彼のポケットにあるせいで、いとも簡単に引き寄せられ、強引な口付けに捉えられる。
長く苦しいまでに深い口付けが続き、やっと唇が離れた頃には、酸欠気味でグッタリとなった私の身体。
自力で歩けなくなった私の身体を、シュラ様は満足そうに抱え上げ、暗い宮の奥へと入っていった。



‐end‐




クリスマスも変わらずムッツリ変態な山羊さまですw
この後は、『翌朝編』に続きますよ^^

2011.12.25



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