6.夜更けの猫ちゃん



さて、と。
デスマスク様が居るといっても、二匹の猫ちゃんを一度に面倒見るのは大変だもの。
急いでシャワーを浴びて、早く戻らないと、何をしでかすか分からない。
何せ中身がシュラ様とアイオリア様。
普通の猫ちゃんとは違い、デスマスク様への反発の意思が強い。
何かと……、うん、心配にもなる。


私は足早にバスルームへと続く廊下を歩いていった。
勿論、聞こえてくるのは私の足音だけ、それ以外の物音は何もしない。
でも、何だろう?
私、今、物凄く強い視線を背後から感じるのですが。
き、気のせい、でしょうか?


パッと振り返って後ろを見る。
勿論、そこには誰も居ない。
薄灯りの廊下があるだけで、当たり前に人の気配すらない。


そうよね、ココは磨羯宮。
シュラ様が猫化したなんて事、まだ一部の人以外には知られていないのだから、黄金聖闘士の住まうプライベートルームに進入しようなんて企む、そんな勇気ある輩がいる筈もないのだわ。
大体、リビングにはデスマスク様が居る。
彼の横を通らずして、奥へと続くこの廊下には入って来られない。


大丈夫、気のせいよ、気のせい。
そう自分に言い聞かせて、また歩を進めた。
が、どうにも感じる視線は消えない。
それどころか、より強くなっている気がする。
あ、まさかデスマスク様がいるから、幽霊さんとかそういった類の何かが浮遊しているのかも……。
いやいや、でも六年もの間、巨蟹宮で一緒に暮らしていたのに、私は一度たりとも、そのようなものは見た事がなかった。
デスマスク様曰く、私が『超絶鈍い』ためらしいけれど。


ええい、もう!
思い切って、もう一度、確認すれば良いのよ!
ゆ、幽霊なんかじゃないわ、絶対!


――ピタッ、クルッ!
――ポムッ。


突然に立ち止まり、勢い良く振り返る私。
結果は先程と同じく、振り返り見た背後には誰もいない。
だけど、足首にポムッと当たった柔らかな感触。
これは……、一体、何?


振り返った体勢のまま、ゆっくりと視線を下へ落とした。
すると薄暗い廊下の真ん中、私の足元に黒い塊が丸まっているのが見えた。
これは、もしや……。


「シュラ、様?」
「ミャ?」


屈んで良く良く見てみれば、やはりそれは黒猫姿のシュラ様だった。
名前を呼ばれて顔を上げはしたが、小さく首を傾げてみせる仕草から、またとぼける気満々なのがバレバレである。


「何しているのですか? デスマスク様にブラッシングしてもらっていたんじゃなかったのですか?」
「ミャ?」
「まさかバスルームに一緒に入る気ですか? 今さっきデスマスク様と入ったばかりじゃないですか。」
「ミャ?」
「駄目ですよ。そんなに何度も入っては逆上せてしまいます。」
「ミャ、ミャ?」


やっぱりだ。
またも猫である事を利用して、言葉が分からない振りをしている。
今更、そんな振りをしても既に遅いと言ったのに、そうまでして私と一緒に入りたいのですか、貴方は?


「ミャ、ミャ。」
「無邪気に可愛く纏わり付いても駄目です。」
「ミャ?」
「言葉が通じない振りしても無駄です。」


私はシュラ様の狭い眉間を、人差し指でグリグリと押した。
意地でも、お風呂へついて行こうとするシュラ様は、私の腕をスルリと擦り抜けると、バスルームの扉をカリカリと引っ掻いて、「ミャー。」と鳴いた。





- 1/8 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -