闇のリズム的とある春の日



今日のシュラ様は十日振りの休日。
だからといって、遅く起きる訳でもなく、ノンビリしている訳でもなく、いつも通り同じ時間に朝食テーブルに着く。
休日といえど、日課の早朝トレーニングを休むシュラ様ではない。
だから、私の仕事も、普段と変わらずだ。


「……今朝はグレープフルーツか。」
「え、お嫌いでしたか、シュラ様?」


今朝の食卓。
デザートには皮を剥いたグレープフルーツをガラスの器に盛って、そのまま出していた。
この時期、淡い桃色をしたピンクグレープフルーツは糖度も高く、砂糖を掛けずにそのまま食べても十分美味しい。
多少の苦味と酸味も、朝食後のデザートに丁度良いと思ったのだけど……。


「いや、良い。下げなくても。」
「でも……。」
「言ったろ。俺には好き嫌いはない。」


グレープフルーツの入った皿を下げようと伸ばした手は、シュラ様によって止められた。
そして、目の前でパクパクとグレープルーツを口の中へと放り込んでいくシュラ様。
では、先程の躊躇いは何だったのだろう?


「ご馳走様。今朝の食事も美味かった。」
「有難う御座います。そう言って頂けると、作り甲斐があります。」
「あぁ、そうだ、アンヌ。」
「はい、何でしょうか?」


席を立ち、ダイニングから立ち去ろうとしていたシュラ様が、不意に足を止める。
お皿をキッチンへと下げようとしていた私も、釣られて足を止めた。


「今日は少し……、出掛けてくる。」
「え……?」


珍しい。
いつも休みの日は、得意の出不精っぷりを発揮して、リビングでゴロゴロしているか。
もしくは、出掛けるとしても強制的に私にお供をさせるかの、どちらかなのに。
一人で出掛けて行くなんて、始めてかも……。


驚く私を後目に、さっさと出て行ってしまったシュラ様。
今日は何か特別な事でもあるのかしらと、残された私はひたすら首を傾げた。



***



シュラ様が出掛けてから一時間。
何となく時間を持て余しつつ、私はノンビリと過ごしていた。
別に休日じゃない日の日中は、執務や修練で、いつもココにはいないのだから、普段と同じように私も過ごせば良いのに、どうしてか何も手に付かない。


落ち着かない、というのが正解なのかもしれない。
執務や修練中なら、シュラ様が何をしているのか分かるけど。
こうして休日にフラッと出て行かれたなら、彼が何をしているかなんて分からないのだもの。
いつも休日は目に届く場所に居てくれる(というか、必要以上にくっ付いてくる)シュラ様だから、余計に気に掛かってしまうのだわ。


何処へ行ったのだろう?
帰りは遅いのかしら?
そう思いながら、時計を見上げる。
まだ午前十時を少し回ったばかりだった。


と――。


「ただいま、アンヌ。」
「えっ?! シュラ様?!」
「何だ、その顔は? 俺が戻って来てはいけなかったのか?」
「いえ、そういう訳ではなくて……。」


まさか、こんなに早くに戻ってくるとは思わなかった。
まだ出掛けてから、一時間ちょっとしか経っていないのに。


「別に遠出をしてた訳じゃないからな。少しだけ、買い物だ。」
「買い物?」
「これを……。」


スッと差し出された手には、茶色の紙袋。
中身を覗くと、そこには真っ赤に熟れた美味しそうな苺がギッシリと詰まっていた。
艶々と光って、直ぐにも食べないと熟れ過ぎて駄目になってしまいそうな。


「昨日、任務の帰りに通り掛ったロドリオ村の市場で売ってたんだが……。」


あまりに美味そうだったんでな。
そう言って、シュラ様は頬を少しだけ染め、そして、それを隠すようにフイッと顔を逸らした。
そうか、シュラ様は苺が食べたかったんだ。
だから、今朝のグレープフルーツに躊躇したんだわ。


「直ぐにキッチンで洗ってきますね。シュラ様も、手を洗って待っててください。」
「分かった。」


その言葉に、嬉しそうにフッと軽い笑みを零すシュラ様。
見た目は強面なのに、こういう可愛いところがある、そのギャップに、私はいつも心惹かれるのです。



‐end‐





強面なのに苺好きなのって、どうなの?
なんて思いながら書いた拍手です。
そんなギャップ萌えな山羊さまサイコー(笑)

ちなみに、これを書いた管理人が苺嫌いなのは、ココだけの秘密ですw

2011.04.某日



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