闇のリズム的クリスマス



「シュラ様……。」
「何だ、アンヌ?」


私はテーブルを挟んで向かい側、用意した食事を次から次へモリモリと食べ進めているシュラ様を、呆れた目で眺めた。
何故、この人は今日という日に、いつもと変わらずこの場所で食事なんてしているのでしょうか?
まぁ、私にしてみれば、いつもより時間も食材費も多く掛けて作り上げた自信作のディナーが無駄にならなかったのだから、良しというものなんだけれど。


「今日はクリスマス・イブですよ。」
「ああ、そうだな。だから、何だ?」


唇の端を親指の腹で拭いながら、コチラにチラと向ける視線。
そういう何気ない仕草が、相変わらず無駄に色っぽい。
こんな余計な場所で、私なんぞ相手にフェロモン振り撒いてる場合じゃないのに。


「クリスマスと言えば、恋人達のイベントじゃないですか。どうして、こんな大事な日に、私と向かい合ってノンビリ夕食など食べているんです? 誘わなかったんですか、例の彼女を?」
「まぁ、何だ。俺にとっては、ココでアンヌと一緒に飯を食って、ノンビリ過ごすのが、最高のクリスマスという事だな。」
「つまり、誘わなかったんですね。チャンスだと言うのに。」


あからさまに溜息を吐いてみせたが、当のシュラ様はといえば、我関せずと言った調子で、悠々とまたチキンを口に運んでいる。
一体、この方は何を考えているのでしょう?
こんな具合では、いつまで経っても告白なんて出来ないんじゃないの?


「誘う必要などあるまい。俺が何も言わなくても、アンヌがこうして豪華なディナーを用意して待っているんだからな。それを知ってて、何処に出掛けられると言うんだ?」
「全く。こんな大事な日に、何処まで出不精なんですか、シュラ様……。」


私を口実に、クリスマスも自宮でダラダラだなんて、何という怠惰具合。
律儀で真面目でストイック、闘う姿は一振りの剣のようだと言われる山羊座の黄金聖闘士様が、聞いて呆れるわ。
チラリとシュラ様の方へ視線を走らせれば、切り分けたブッシュ・ド・ノエルを、顔は無表情のまま、それでいて幸せそうに口に運ぶシュラ様の姿が映る。
その姿は、何と言うか、おっきな小動物と形容したくなる可愛さだった。


「アンヌ。」
「はい、何でしょうか?」
「片付け物は後にして、ちょっとコッチへ……。」


何だろう?
ダイニングのテーブルを片付ける手を止め、シュラ様に手招きされるまま、リビングへと足を運ぶ。
ポンポンとソファーの空いた部分を叩く仕草は、横に座れという彼からの合図。
私は大人しく、その合図に従い、シュラ様の横に腰掛けた。


「いつも世話になってるからな。」
「え……?」


ポフッと頭に被せられた、柔らかでフワフワした暖かいもの。
触れる耳が擽ったくて、でも、とても心地良い。
頭から外して手に取ると、グレーの毛がフワリと耳を覆うイヤーマフラーだった。
とても軽くて、でも、暖かくてフワフワ気持ち良くて……。
何だか高価そうな気がする。


「シュラ様、これ……。」
「買物の時に耳が冷たいと言っていたのを、思い出してな。それならば、どうかと思ったんだが、嫌か?」


私はすぐさまブンブンと首を振った。
嫌な事なんて絶対ない。
物凄く嬉しい。
こうしてプレゼントをしてくださった事も、そして、私がポロッと口走った些細な一言を覚えていてくれた事も。
その両方が、とてもとても嬉しかった。


「でも、私。何もお返しできるものがありません。」


だって、シュラ様は例の彼女を誘うものだとばかり思っていたから。
一応、ディナーは用意したけれど、百パーセント無駄になるだろうと思っていたし、だから、シュラ様への贈り物の事なんて、これっぽっちも思い付かなかった。


「ならば、仕方ない。ものがないなら、アンヌ自身で我慢しておこう。」
「は?」


最初は彼の言っている言葉の意味が分からず、首を傾げた。
だが、ジッとコチラを見下ろすシュラ様の色気を多分に含んだ悪戯な視線と、口元に浮んだデスマスク様みたいなニヤリ笑顔で気付いた。
と同時に、全身の血がカアッと燃え上がるように頭に昇って、顔が火を噴き出しそうな程に熱くなる。


「ま、また、そんなご冗談で、私をからかって!」
「冗談? 俺は本気だが? 折角のクリスマスだ。アンヌだって、朝まで素晴らしく濃厚な時間を過ごしたいだろ?」
「わ、私は遠慮させて頂きますっ!」


慌てて席を立ち、シュラ様の傍を離れる。
これ以上、彼の横にいては全身の血が沸騰して、その場で卒倒しかねない。
この色気に当てられては駄目よ、駄目!
どうせ冗談なんだから、私をからかって楽しんでいるだけ!


パタパタと足音を響かせ、元のダイニングに向かう。
まだ、夕食の後片付けが終わっていない。
それらを綺麗に片付け終わる頃には、きっとこの熱も冷めるだろう。


「――本気も本気、大本気だったんだがな。」


背後のシュラ様が、何やら呟いていたようだったが、私の耳にはハッキリと聞き取れなかった。



‐end‐





相変わらずのセクハラ山羊さんです(笑)
本来のストーリーでは、クリスマスの時期には、もうラッブラブの筈なので、これはあくまで『もしも』の話。
私の脳内では、この後、我慢出来なくなった肉食山羊さんが、夢主さんのベッドに夜這いに行きますよ(苦笑)
その部分の妄想は表に出来ない程度にあっはんうっふん度が激高いので、ココでは伏せておこうと思います、えへ。

2010.12.24



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -