闇のリズム的山羊座の誕生日



その日。
誕生日を迎えたシュラ様のためにと、いつも以上に気合いの入ったディナーを用意し、私は彼の帰宅を待っていた。


「戻ったぞ、アンヌ。」
「あ、おかえりなさいませ、シュラさ――、わっ、凄い荷物! これ、どうしたんですか?」
「気にするな、毎年の事だ。」


扉を開けて入ってきたシュラ様は、両手に一杯の紙袋やら箱やらを抱えていた。
よくよく見れば、どれも綺麗に包装されている。
つまりは、これ全てが、シュラ様への誕生日プレゼントだという事。


「まさか全部、女性からの贈り物ですか?」


私の問いに、彼は軽く片眉を上げた。
それは肯定を意味している。


「毎年、こんなに?」
「正直、迷惑なのだが、受け取らんという訳にもいかなくてな。」
「わ、このセーター、とても素敵。シュラ様に似合いそう。こっちはマフラー。これもシックで素敵。やだ、こんな高価そうなアクセサリーまで……。でも、どうするのですか、これ?」


中身を見てみれば、どれも選びに選び抜かれたといった、シュラ様に良く合いそうな洋服やら装飾品やらが、出てくる、出てくる。
それこそ、お金に糸目を掛けず、中身で勝負と言わんばかりだ。


「食べ物などは自分で食うが、あとは半年程、物置で寝かして、それから、秋のフリーマーケットに出している。」
「え、これ全部ですか?! だって、物凄く高そうなものもありますよ。一度も身に着けずに、寄付してしまうんですか?」


聖域では秋に恒例のフリーマーケット。
そこでは皆が不要なものを持ち寄り、そうして集まったものを使って、アテネ市街でフリマを行っているのだ。
その収益は、近隣の町や村の孤児院などに寄付する事になっている。


黄金聖闘士様方には、何故だか、必ず数点は寄付しなければいけないという義務がある。
デスマスク様は、この季節、いつも頭を悩ませていた。
黄金聖闘士の面子があるからなのか、下手なものは出せないのだ。
だが、大事なもの・高価なものは、寄付といっても、なかなか手離せない。
だから、何をフリマに寄付するのか、とても悩むのだと。


そんな状態だったデスマスク様を思えば、これをこのまま出品してしまうのだから、シュラ様は悩む事などないだろう。
でも、だからと言って、あまりに勿体ない気が……。


「アンヌ、少し考えてもみろ。もし、俺がこの中のどれかを身に着けたとして、そんな俺を見れば、贈った本人は大いに勘違いするだろう。勘違いまでいかなくとも、期待ぐらいはする。そして、それ以外の者は、自分は負けてしまったと思う。」
「そう、ですね……。」
「だから、俺は全てをフリマに出す事にしている。皆に平等に気持ちがない事を理解させるためにな。それは贈った本人達も分かっている。」


分かっているのに、それでも、お金を掛けて贈り物を渡しているの?
身に着けてもらえないと知りながら、苦労して選んで、高いお金を払って購入して。
それは、とてもとても切ない行為に思える。


「もしかしたらという思いが、あるのかもしれんな。去年は駄目だったが、今年はもしや……。そう思って贈ってくるのだろう。」
「私って、贅沢者なんですね。」
「ん? 俺ではなく、お前が贅沢者なのか?」
「はい。だって、こんなにも皆さんが一生懸命に振り向かせようとしているシュラ様の心、私が独り占めしてるんですから……。」


私は彼のために、こんなにも素敵で高価な贈り物など、用意出来ない。
私に出来る事といったら、いつもよりも豪勢な食事を用意する事と、心を籠めてケーキを焼くくらいだ。


「それで良い、それで十分だ。俺は、こうしてアンヌが傍にいてくれるのならば、他には何もいらん。」
「シュラ様……。」


今日はシュラ様の誕生日だというのに、私の方が贈り物を彼から貰ってしまったような気がして。
思わず、心に思った事を、そのまま口走っていた。


「今日は何でも言ってください。シュラ様の望む事、何でもしますから。」
「フッ、嬉しい事を言ってくれる。」


目を細めて微笑んだ、彼の嬉しそうな表情に釣られて、私も嬉しさが込み上げてきて。
目の前のシュラ様に向かって、ニッコリと微笑んでみせた。


ただし、この夜。
私は、この言葉を大いに後悔する事になる。
早朝まで終わりなく続いた、彼の濃厚過ぎる愛情表現によって……。



‐end‐





01.12 HAPPY BIRTHDAY SHURA!
モテモテ山羊さまを書いてみたかったとか言います^^

2012.01.12



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