感情転移



フゥと一つ溜息を吐いた。
それは小さくて無意識の溜息だった。
なのに、私の向かいに座ってコーヒーを飲んでいたデスは、ピタリと動きを止めると、咎めるように私をジロリと一睨みした。
何よ、自分だって、「あ〜、やってらンねぇ!」とか零しつつ盛大に溜息吐いているじゃないの、いつも。


「俺とオマエじゃ溜息も意味が違う。」
「溜息に意味があるなんて初耳だわ。」
「意味があるから溜息なンだろ。無意味な溜息なんて、ただの呼吸だ。」
「こんな小さな溜息くらい見逃してくれたって良いじゃないの。」
「大きい小せぇは関係ねぇよ。オマエの憂鬱は俺に感染(ウツ)る。俺にはな。」


オマエじゃなくて、ミカよ。
上げた抗議の声はサラッと無視し、デスはカップに残っていたコーヒーを一気に飲み下した。
ゴクリゴクリと音に合わせて綺麗に隆起する白い喉を眺めながら、その言葉の意味を考える。


デスは酷く敏感で、そして、とても繊細だ。
あんな見た目で、あんな性格で、あんなに残忍でありながら、黄金聖闘士の誰よりも繊細。
だからこそ、今、こうして私と共依存の関係にある訳で、それ故に、私の心の動きには敏感に反応する。
頻繁に私に喧嘩を吹っ掛けてくるのは、それに対する反動が起きているから、所謂、反作用なのだろう。
私の気持ちに釣られて上がり下がりする自分が嫌になって投げ槍になると、私との言い合い・小競り合いで無意識に発散しようとしてしまうのだ。


「じゃあ、私はいつ、何処で、溜息を吐けば良いのよ?」
「俺の見てねぇトコで、ひっそりこっそりやっとけ。」
「横暴。」
「俺の横暴は今に始まったこっちゃねぇし。」


まぁ、そうだけど……。
そもそもデスは、私の溜息の原因ってものを分かっているのかしら?
分かってないわよね。
分かっているなら、「溜息を吐くな!」なんて横暴な事は言い出さない筈。


「オマエ、俺をバカかアホだと思ってンのか?」
「……はい?」
「俺がオマエの溜息の原因に気が付いてねぇとでも? あ、悪ぃ。バカはオマエの方だったな、すまねぇ。」


この物言い、私を怒らせようとしているって、直ぐにピンときた。
デスが、こういう嫌味な口振りで私に向かって喧嘩腰に向かって来るのは、ワザと私と一悶着を起こそうとする意図があるからなのだ。
はいはい、今日も元気に反作用しているわね。
それとも、言い合い・罵り合いを繰り広げてカッカしている間に、溜息の原因など綺麗さっぱり私が忘れてしまえば良いと、期待でもしているのかしら。
だとしたら、随分と短絡的だけど、それでもデスらしいとも思う。
見た目に反して、実は気遣い屋さんだものね、デスは。





- 1/2 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -