一方的決め付け恋愛10



「……埃っぽい。」


普段、全く足を踏み入れない場所には、やはり埃の臭いが充満していた。
いや、実際に埃は全く積もってはいなかったのだが、他の部屋のように出入りのない場所である上、光が射し込まないように造られた場所。
風が通らないために、置かれている収蔵物の臭いが籠もってしまうせいだろう。
巨蟹宮の書庫、歴代の蟹座の聖闘士が積み重ねた歴史と、彼等が収集した情報の全てが、ココに詰まっている。


「本当はココに入るのは気が引けるのだけど……。」


しかも、デス様の目を盗んで、彼の居ない隙に勝手に入り込んでいるのだから、余計に気が引ける。
だが、ココしかなかったのだ、彼の目に触れないように物を隠すには。
宮主であるデス様すら滅多に足を踏み入れない場所。
この宮の何処を見ても、彼に見つかる危険性が高い。
ならば、有事の際に調べものをする時しか入らないこの場所であれば、どうだろう。
そう、ココが一番、隠し場所には適していた。


「ちょっと……、奥に置き過ぎた……、かも……。と、届かない……。」


私は持ち込んだ脚立に乗り、壁際の書棚の上を手で探った。
ココならば見つからないだろうと置いたのは良いが、より見え難いようにと奥に押し込んだのが悪かったようで、脚立の上に乗っても、手が届かなくて焦る。
危ないとは分かっていても、後少しなのだからと爪先立ちからジャンプ――、したのが悪かった。


「……キャッ!」


相変わらずの鈍さで、脚立の上に着地出来なかった私。
見事に足を滑らせて、書庫の固い床へと真っ逆さま。


――ボスンッ!


の筈だったのだけれど。
私の背中に当たったのは硬い床ではなく、弾力のある筋肉の感触。


「ったく、危ねぇなぁ。運動神経ねぇンだから無茶すンなよ。しかも、こンな人目のねぇ場所で。」
「で、デス様……。」


間一髪、床に叩き付けられる直前で、柔らかに受け止められていた。
驚いて見上げる視界には、憎らしいまでのニヤリ笑いが映る。
憎らしい、でも、これ程、安心出来る表情はない。
口ではグチグチと文句を零しながらも、こうしていつも危なっかしい私をフォローしてくれるのだから。


「まぁた、このシチュエーションか。アディス、オマエ、そンなに俺に姫だっこされたいワケ?」
「そ、そんな事は……。」
「お騒がせなヤツだな。こンなトコで何してたよ?」
「それは、その……。」


自分の正直さに嫌気が差す。
目を泳がすだけなら兎も角、あろう事か、見つけられないようにと隠した書棚の上へと、視線を走らせてしまうなんて。
目敏いデス様が、それを見逃す筈などないのに。


「ほぉう。なンだ、あの小せぇ紙袋は?」
「…………。」
「黙秘か。ンじゃ、勝手に見ちまうしかねぇなぁ。」
「だ、駄目駄目駄目! 駄目です!」


腕の中から下ろされた私が制止するのも聞かず、デス様は書棚の上に手を伸ばす。
ううっ、私が脚立に乗って手を伸ばしても届かないのを、そうも簡単に……。
背が高いってズルい、手足が長いってズルい。


「ん? 箱が二つ? リボンまで付いてンな……。」
「プレゼントです、誕生日の。」
「あぁ、今日だっけか、俺の誕生日。すっかり忘れてたわ。」
「えぇっ、ホントですか?」


道理でこの数日、ソワソワしてやがると思った等とブツブツ呟きながら、紙袋を床に置くデス様。
気付けば、いつの間にやら壁際に追い込まれ、太い両腕で逃げ場を奪われる私。
えっと何ですか、この怪しげな体勢は……。


「プレゼントなンかいらねぇのに。俺はアディスの、このエロい身体があれば満足なンだからな。」
「ま、またそのような事を……。」
「本気だぜ? ベッドの上でオマエに尽くしてもらえりゃ、それで十分。」


あの日、初めて彼に心動かされた時と同じように、逞しいその腕に助けられた私。
落ちたのは私か、それとも彼か。
落とされたのは私だけれども、溺れているのはデス様ではないのだろうか。
彼がどれ程に私を愛でて、執拗に愛の行為を繰り返すのかを、身を持って知っているのだから。


「折角、選んだ贈り物なのですから、無碍にはしないでください。」
「分かってるさ。コッチは後でのお楽しみって事で、なぁ。」
「って、ちょっとデス様? 何をなさって……。」
「この埃臭さとインクの匂いに、ムラムラしてンだよ。」
「ま、まさか、ココで?」
「イイだろ、アディス? タマには、こういう状況もな。」


強引に、でも、優しく情熱的に私を導くその手に、逆らうなんて出来ない事は良く分かっている。
抵抗する事を諦めるしかない私は、仕方なくデス様の熱い手と唇に、自分の全てを委ねた。



暗く狭い場所での、秘めやかな睦言



‐end‐





予想より長くなった(死)
プレゼントの中身は、次作に続きます、多分。

2015.07.05



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -