夜の帳の内側で



「なンだよ、擽ってぇな……。」


その夜は、カーテンを開け放していた。
窓の外には雲もなく、コクリと深い真っ黒な夜空が広がっていて、とても美しかったから。
真っ二つに割れた半月は、満月の半分の大きさしかないのに、部屋の中へと差し込む月光は、妙に鋭かった。


横たわったベッドの上、波打つシーツがサラサラと頬に触れる感覚が心地良い。
私は真っ白なシーツの上にうつ伏せたまま、目の前の彼の肌に手を伸ばしていた。
情事の後の、少しだけ気怠さを纏った表情は、普段の憎たらしさとは正反対の、仄甘い色気を醸し出している。
クタリと草臥れた銀の髪も、油断さえ感じられるリラックスした様子も、素肌を晒した一糸纏わぬ裸体も、私だけが知る彼の姿。


「……透けて見えそう。」
「あ?」
「白い肌に月光が差して、内臓まで透けて見えそう。とても……、とても綺麗。」
「オイ。内臓が透けて見えちまったら、ひたすらグロいだけだろが。ンなモン、ドコが綺麗だってンだ。」


そういう事を言っている訳じゃない。
白というには余りに繊細で、人間のものとは思えない程に不可思議で滑らかな、この壊れもののような肌が、身体が、綺麗だって言っているのに。
この人だって分かっているのだろうけれど、照れ臭いのか何なのか。
ゆるゆると彼の肌を胸から腹、腿へと滑らせていた私の手をピシッと弾いた。


「……痛い。」
「俺の肌を撫で回しといて、痛ぇも何もねぇだろ。俺がオマエの身体を撫で回すなら兎も角、痴女か、オマエは。」
「オマエじゃない、ミカ。それと、私は痴女じゃないわ。」
「あ、そー。」


どうでも良いとでも言いたげに返事をして、少し猫背気味に座っていた身体を、彼はグッと反らして伸びをした。
暗闇に浮かび上がる、その姿。
伸び上がった艶やかな肌の上を、まるで月光の雫が玉となって滑り落ちていくようで、思わず息を飲む。
同じ人間でありながら、何気ない仕草の一つで、こうも幻想的に見えるものなのか。
もう六年も共に過ごしていながら、この人の動き一つ、身体のライン一つに、呆然と見惚れてしまうなんて。
そう、長く一緒に過ごせば過ごす程に、私は彼に惹かれてしまう。
知れば知る程に、その魅力に深く私は囚われてしまう。


「褒め言葉なんだから、有り難く受け取っておきなさいよ、デス。」
「あ? なンの話だ?」


暗闇の中、目を細めたデスは、寝そべる私に視線を落とす。
私は彼の横までにじり寄って、上半身だけをヨロヨロと起こした。
スルリ、肩から滑り落ちていく上掛け代わりのシーツが、肌にこそばゆい。
未だ消えない情熱の名残が糸を引き、そんな小さな感触にもフルリと身体の奥が震えた。


「お、イイ眺めだな。」
「馬鹿。何処、見ているのよ。」
「オマエだって、俺の肌を撫で回してたじゃねぇか。俺だって同じ事してぇって思ってもイイだろ。」


彼の長い腕が、闇を割って伸びてくる。
肩から腕、脇腹を撫で擦って、それから、ゆっくりと身体全体を押し倒し、自分もそのまま覆い被さってきた。
キシリ、静かに、微かにベッドが鳴いて、私の頭の下で、押し潰された枕が大きく息を吐く。
そして、再び始まる、緩慢で、それでいて確実な愛撫の数々。


「……ミカ。俺の、何を褒めたンだって?」
「分かっているでしょ。貴方の立派なこの身体よ。」
「つまり、『コレ』か?」
「ん……、ああっ。」


ビクリと跳ね上がる身体を押さえ付け、深々と入り込んでくる熱い楔。
隅々まで私を知り尽くしているデスは、手加減一つなく、既に一戦を終えた身体を目覚めさせ、もう一度、圧倒的で巧みな誘導で、目眩の渦へと引き摺り込んでくる。
遠慮なんてない。
もう数え切れない程、重ね合わせた身体と身体だもの。


「はっ。やっぱ最高だな、オマエの身体。」
「ん、あ、はっ……。デスッ……。」
「オマエも堪能してンだろ、ミカ……。」
「こ、こんな時ばっかり……、あっ。名前、呼ばない、で……、ああっ。」


誰もが気味悪いと言う真っ白な肌も、血の色に爛々と光る真っ赤な瞳も、恐れと怖さの象徴のような死を呼ぶ能力も、繊細で敏感で、そして、傷付き易い心も。
私は貴方の何もかもが綺麗だと思うの、デス。
だから、どうぞ、ずっと私の傍で、心行くまで力を抜いて、リラックスして。
他の誰もが貴方を拒否したとしても、そんな貴方を、私が全てを受け止めてみせるから、ね。



半月の下で刻むリズム
貴方と私を繋ぐもの



‐end‐





EROにする気など微塵もなかったのに、書き上がったらEROに仕上がっていたという、これぞ蟹マジックwww
蟹誕まで後数分。
フライングですが、おめでとうの気持ちを籠めて、蟹さまにEROを捧げます(爆)

2015.06.23



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