「デス。ねぇ、デス。」
「……あー?」
「このままじゃ私、寝られないから、ね。離してくれる?」
「…………。」


反応がない。
やだな、完全に夢の世界に戻っちゃったかしら。
困るなぁ、朝まで、このままだったら、身体がバキバキになっちゃう。


小さく一つ溜息を吐いて、お腹に回された彼の手に、自分の手を重ねた。
大きな手、私の手では到底、包み込めないくらい。
この無意識に甘える行為は、きっと不安と嫉妬の現れだ。
聖域に来てからというもの、毎日の如く、私はアテナ様の元へと呼ばれる。
ランチ、ティータイム、時にはディナーと。
その間、デスはというと、ここぞとばかりにサガ様が傍から離してくれずに、やれ「調べものを手伝え。」だとか、やれ「親書の作成を手伝え。」だとか、ひたすら扱き使われては、文句を吐き出す日々。


「ったく、俺はアイツの奴隷じゃねぇぞ。人のコト、散々、扱き使いやがって。世間でいうボーナスでも貰わねぇと、ワリに合わねぇっての。」
「それだけ、サガ様がデスの事を信頼しているからでしょ。」
「信頼ねぇ……。」


デスの持つ知識の深さ、そして、頭の回転の速さ。
黄金の誰よりも多くの言語を操り、あらゆるところに巡らせた情報網と、その情報収集能力の高さは、サガ様じゃなくとも、あてにしたくなるだろう。
サガ様としては、彼をシチリアには帰したくないのが本音。
聖域に留め置いて、自分の片腕として動いて欲しいのだ。
デスと私、二人共に、この聖域に留まる事。
それが叶えば、アテナ様もサガ様も万々歳なのだろう、きっと。


デスは多分、ココに来る前から、彼等の意図を見抜いていた。
だからこそ、私を連れて聖域に向かう事を、あんなに嫌がっていたんだわ。
苛々として、いつにも増して不機嫌だった、出立前のデスの顔。
そんなに嫌だったなら、少しの間だけ滞在して、直ぐにシチリアへ戻れば良かったものを。
人手が足りずに自分を頼ってくるサガ様を、無碍に突き放す事が出来ないでいるのだ。
戦場ではあれだけ残酷で残忍だっていうのに、大切な人のためには何処までも心を砕く……。


「馬鹿ね。ホント、馬鹿。」
「……煩ぇよ。」
「っ?! 起きてたの、デス?」
「オマエがモゾモゾモゾモゾ動くからだろが。動かれたら、抱き心地悪ぃンだよ。」


また、『オマエ呼び』に戻った。
今度は完全に覚醒したらしいわね。
話し方が、いつものデスに戻っているもの。


「起きたなら、ほら、手を離して。地味に苦しいんだからね。」
「オマエが苦しかろうが関係ねぇな。俺が心地イイかどうかだろ。」
「だから、オマエじゃなくてミカ。でもって、苦しいのは嫌だから離して。」
「煩ぇっての。」


大きな手がお腹から胸を伝い、首元をスルスルと滑っていく。
そのまま強く顎を掴まれて、強引に横を向かせられた。
こんな時は、いつも同じ。
こうして無理矢理に私の唇を塞いで、問答無用に黙らせるの。
キスが終わった後、私が怒ると分かっているのに、必ず。
それがデスだから。
それが、ずっと変わらない私達の関係だから。


「ん、んんっ……。」
「ったく、やぁっと大人しくなったか?」
「ん……、もうっ。ならないわよっ。」


顎に掛けられたままの大きな手を払い退け、そのまま身体も回転させて、デスと向かい合う。
そこにあったのは、いつもの自信満々なニヤリ笑顔。
闇の中でもクッキリと吊り上がって見える右の口角の、憎らしい事といったら。


「痛っ。抓ンな、オマエ。」
「だから、オマエじゃない、ミカだって言ってるでしょ。」


両手で抓った頬を、更に横へグーッと引っ張った。
折角の男前な顔も、セクシーなニヤリ笑いも、こうなってしまっては台無しね。


「ミカ、テメェ。覚悟しろよ。このまま朝まで寝かせねぇからな。」
「え、ちょっと……。デスッ。」


力任せに組み敷かれ、容赦なく性急に始まる巧みな愛撫。
私達の夜は、まだまだ明けそうもない。



子供で大人な貴方
私だけが知る貴方



‐end‐





名前変換極小でスミマセン。
このシリーズは殊更、蟹氏が名前を呼びたがらないので、どうしても……(苦笑)
でも、蟹夢の萌えポイントは名前を呼ばれる事よりも、オマエ呼びだと思ってたりしますw

2014.07.22



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