一方的決め付け恋愛



「アディス。オマエ、俺のコト好きだろ?」
「は……?」


突然、勢い良く開いた扉の音に続き、告げられたこの台詞。
私はポカンと口を開け、目を丸めて相手を見返すしかなかった。


人気のない資料室。
頼まれた資料を探して、窓側の書棚を漁っていた私だったが、やっとの事で見つけた資料ファイルは、遥か書棚の一番上段。
背の低い私に手を貸してくれそうな人は誰も見当たらず、渋々、用意した脚立に乗っかって、目的のファイルに手を伸ばした、まさにその瞬間の事だった。


「いきなり現れて、何を言い出すんですか、デスマスク様。」
「何って、言った通りだ。ンなコトも分かンねえ程、バカなのか、オマエは?」


前々から失礼な人だとは思っていたけれど、相手は黄金聖闘士。
これまではグッと堪えてきたが、こうまで言われたら我慢も限界。
何故に、いきなり「俺の事が好き」なんて決め付けられた挙句、馬鹿呼ばわりされなきゃいけないんですか?
こんな品性の欠片もない人に!


「勘違いも甚だしいです。私は貴方の事を好いてなどおりません、デスマスク様。」
「嘘吐け。」
「嘘じゃありません。どちらかと言えば、好きよりも、嫌いな方です。」


どちらかと言わなくても、嫌いな方ですけどね!
全く、こんな横暴で図々しくて自分勝手な人が、アフロディーテ様やカミュ様と同じ黄金聖闘士だなんて信じられない!
聖闘士の上位に立つ黄金なのですから、選定の際には人格と性格のテストも実施した方が良いのではないかと、私は思います。
大いに思います。


「イヤよイヤよもスキのうち、ってな。オマエ自身でも気付いてねぇみてぇだが、オマエは絶対に俺のコトが好きだ。間違いねぇよ、アディス。」
「何がどうなったら、そんな都合の良い解釈が出来るのですか? 私は絶対にお断りです。それだけは有り得ません。大体、何を根拠に、そのような結論に至ったのか、不思議でなりません。」


ああ言えば、こう言う。
本当に埒が明かない。
こんな人を好きになってしまうくらいなら、私、絶対にアフロディーテ様に恋をします。
こんなマフィアみたいな怖い人、私の好みじゃありませんから。


上から見下ろす銀の髪。
自信満々に胸を張って、人を小馬鹿にしたように口の端に浮かぶ薄い笑み。
何もかも嫌だった、こんな人に何をどう間違っても恋なんてしたりしない。
アテナ様に誓ったって良いわ。


「根拠って、なぁ、アディス。オマエ、いつも俺のコト、見てるだろ?」
「……は?」
「朝、執務室に入ってきた時、淹れたお茶を配る時、部屋を出る時、廊下ですれ違う時。オマエは、いつも必ず俺の事を見る。無意識にな、俺に目が向いちまってンだよ。つーコトで、オマエは俺に惚れてる。以上、簡潔なる結論だ。」
「何ですか、それ? 勝手にそんな事、決め付けないで下さ――、きゃっ!!」


下から見上げてくる紅い瞳が憎らしく、思わず声を荒げた瞬間だった。
興奮のあまり、脚立という足場の悪い場所に立っていた事を忘れていた私は、大きくバランスを崩し、冷たく光る床に向かってグラリと頭から傾いていく。


――ボスッ!!


「クックック。ベタな展開だが、悪くねぇな、こういうのも。」
「あ……。」
「精々、キャンキャン喚いてろ、アディス。オマエが陥落するまで、そう時間は掛かンねぇからな。」


激突する!
そう思った瞬間に、来る筈の衝撃はまるでなく。
恐る恐る開いた瞳には、ニヤリと笑った自信満々な笑みが映る。
あぁ、助けられたんだわ、デスマスク様に。
寸でのところでキャッチしてくれたのね、床に激突する前に。


デスマスク様特有のニヤリ笑顔。
いつもは嫌らしく見えるだけの笑みが、何故だろう?
今は、とても頼もしく、そして、ちょっとだけセクシーに見えてしまう。


本当にベタな展開だ。
高所から落ちそうになって、助けられて、笑顔に目を奪われて。
でも、この瞬間。
私の心が、ホンの少しだけ動いた事は、否めなかった。



見てただろ、俺のこと



見てたのかもしれない。
本当に、無意識に、いつの間にか……。



→次へつづく


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