「モンブラン、マロンパウンドケーキ。日本風に、栗饅頭や栗羊羹でも良い。何か美味い栗の菓子が食いたい。」
「ねぇ、シュラ。何でこれを見ていて、急に栗など食べたくなるんだい?」


今にもキッチンに乗り込もうとするシュラを引き留め、理由を聞いた。
聞かずには気になって仕方ない。
何故、この流れで、いきなり栗など出てくるのか……。


「栗色だろう。」
「……は?」
「その女、髪が栗色だ。余りに見事な栗色なんで、見てたら栗が食いたくなった。」
「栗色って……。」


髪の色が栗色だからって、栗の菓子を連想するかい、普通?
頭の天辺から足の先まで、スイーツ漬けだから、こんな思考になるのか?
それとも、飛鳥の作るスイーツを食べ過ぎて、糖分過多で頭がイカれてしまったのか?
これだけのセクシーボディを目の前に、少しの欲情もしないばかりか、菓子にしか頭が働かないなんて、どうかしている。
蟹よ、キミの努力は無駄だった。
山羊の目には、世間一般の色気は、色気として映らないのだ。


「色気なら普段の生活で十分に足りている。奴は、『あンな貧相な女じゃ簡単に欲情出来ねぇだろう。』とか何とか抜かしていたが、俺にとっては、飛鳥は誰よりセクシーだ。問題など何もない。」
「それはそれは御馳走様な事だね。」


だったら、あんなに真剣に雑誌を眺める必要などないだろうに。
そう突っ込みたくなる気持ちを抑えて、シュラの後を追い、キッチンへと向かう。
デスマスクの行為は、確かに大きなお世話で、飛鳥に対して失礼極まりないが、それを突っ跳ねないシュラの態度だって、飛鳥に対して失礼だと気付かないのか、この朴念仁は。


「飛鳥。」
「あ、シュラ。ディーテも。ほら見て、今日のシフォンケーキ。ふわっふわのぷるっぷるでしょう。」
「あぁ、とても美味しそうだ。良い香りがするけど、紅茶かな?」
「流石はディーテね。プレーンと紅茶の二種類、焼いてみたの。今から沙織さんのところへ差し入れに行くから、戻ってきたら三人でお茶にしましょう。」


慣れた手付きでカットしたシフォンケーキをボックスに詰め、それを更にバスケットの中に、そっと入れる飛鳥。
しかし、そんな彼女の動きを止めさせて、シュラは自分の本題へと話を切り替えた。


「お前が戻ってくるまでの間に、俺は栗の菓子が食いたいのだが、何かないか?」
「栗? ちょっと待ってね。確か棚の奥に……。」


秋頃にデスさんが持ってきてくれたイタリア産の栗で作ったマロングラッセがあった筈。
そう呟きながら棚の中を探り、飛鳥は小さな容器を取り出した。
蓋を開けると、ぎっしり詰まった金色の栗が顔を出す。
窓から差し込む光にキラキラと輝く砂糖の衣を、ふんだんに纏った大粒の栗だ。


「ブランデーじゃなくてシャンパンを使ってみたから、ちょっと色味は薄いけど、見た目は良いでしょ?」
「あぁ、美味そうだ。」
「綺麗だね、宝石みたいだ。」


眼前に差し出されたキラキラ艶々のマロングラッセ、その誘惑に堪え切れず、手を伸ばすシュラ。
だが、その手の甲を、飛鳥はペシッと叩いて、手にしていた容器を遠ざけた。


「飛鳥?」
「知ってる? マロングラッセはね、永遠の愛の誓いとして、男性が女性に贈るお菓子なの。」
「っ?!」


飛鳥の言葉に、シュラの動きと表情がピシリと固まる。
凍り付いたシュラ、にこやかに微笑む飛鳥。
そして、まるで錆びたロボットのようにギギギと首を回して私の方を見るシュラの視線が、鋭くコチラに突き刺さってくる。


「栗の花言葉は『満足』。だから……。」
「だ、だから、何だ?」
「私にコレを一個、あ〜んして食べさせてくれたら、残りは全部、シュラに上げる。私を満足させてね、素敵な山羊さん。ふふっ。」
「クッ……。」


シュラには高過ぎるハードルだと分かっていて、飛鳥が仕掛けた愛らしい悪戯。
せめてもの悪友の情けだ。
そういう事なら、お邪魔虫な私は一度、退散するとするかな。



可愛いキミの、甘い悪戯



十五分後。
頃合いを見計らって磨羯宮へと戻った私が見たのは、顔と言わず、見えている肌の全てを真っ赤に染めたシュラが、ソファーにグッタリと倒れ込んでいる姿。
どうやら絶品マロングラッセ欲しさに、慣れないイチャつきゴッコをやってのけたらしい。
これを機に、少しは飛鳥を満足させてやって欲しいものだな。
いつも優しい彼女のために、ね。



‐end‐





ベッドの中では野獣なのに、普段の生活では『まるで駄目な恋人』の山羊さまを、ちょっとだけ困らせちゃう悪戯を仕掛ける夢主さんの巻w
照れ過ぎて撃沈している(でも、あ〜んはやった)山羊さまも、可愛いです、素敵ですw

2015.12.13



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