コーヒーで一服を終えたデスマスクは、グチグチと文句を漏らしつつも、混ぜ合わせた材料を鍋に流し込み、カスタードクリームを練り始めた。
何だかんだで手際が良い、そして、動きが正確で無駄がない。
飛鳥がコイツの手を借りたいと思うのも、まぁ、分かる。


「どうせ暇なのだろう。手伝いくらいで、そう腐るな。」
「暇じゃねぇよ。……って、怒鳴りてぇトコだが、オマエの言う通り、暇って言やぁ、暇だな。」
「本当に暇だったんですか? 誕生日を目前に?」
「それをハッキリ言うか、テメェは。デリカシーのねぇ女だな、相変わらず。」


その方面に激しく鈍くて疎い飛鳥に、そういう気遣いを求めても無駄だと分かっているだろうに。
しかし、彼女が突っ込む気持ちも分からんでもない。
デスマスクは少し前から、夜の街で引っ掛けたとかいう何処ぞの女と良い仲になっているとか言う噂を、俺達はアフロディーテから聞いていたのだ。


「知らねぇよ、あンな女。そもそも付き合っちゃいねぇし。」
「何か気に食わんところでもあったか? お前好みの美人で、セクシーで、スタイルの良い女だと聞いていたが。」
「顔が良かろうが、ナイスバディーだろうが、俺を立てねぇような女は、女じゃねぇ。とっとと消えろってンだ。」


どうやら、そのゴージャスな見た目に見合うだけの、我が儘で自己中な女だったらしい。
相手の事など二の次で、自分の事だけを考えるような女。
隣に立つ男は、自分を引き立てる飾り程度にしか思っていない女。
デスマスクは、飾りにするには申し分ない容姿とエスコート力を持つが、中身に毒が有り過ぎる。
見栄えだけで頭が空っぽの女じゃ、釣り合うどころか、並び立つ事さえ出来やしない。


「見た目に拘らず、趣味と性格に合った女性を探すべきなんじゃないですか、デスさんは。」
「あ、趣味だぁ? なンだ、そりゃ?」
「お料理ですよ、その腕前。私も惚れ惚れしちゃいますもの。デスさんだから、こうして安心してお手伝いを任せられるんです。」


飛鳥は練り終えたカスタードを、ヒョイと一掬い、スプーンに取ると、それを口に含んでニコリと笑う。
そのスプーンに、もう一掬い、それを俺へと差し出す。
淡い黄身色のクリームは艶々としていて、スプーンの端からトロリと零れ落ちそうな滑らかさ。
口に入れると、程良い甘さが口内に広がり、クリームに少しのダマも残っていないサラリとした舌触りは非常に円やかで、最後に加えたキルシュの香りが爽やかに鼻孔を抜けていく。


「飛鳥のクリームと比べても遜色ない味だ。やはり、飛鳥の言う通り、お前にはパティシエかコックが合っているんじゃないのか?」
「パティシエねぇ……。オマエと同類になれってか?」


型に入れたパイ生地に、出来立てのクリームとダークチェリーを詰めて、残りの生地で器用に蓋をしていく飛鳥。
その姿をチラリと見遣り、デスマスクはうんざりと溜息。
飛鳥は常に愛らしく、俺にとっては完璧な女ではあるが、変わり者と言われれば、正直、それは否定は出来ないところだ。


「オイ、飛鳥。オマエ、パティシエ仲間に、彼氏募集中のヤツとかいねぇの?」
「彼氏募集中? デスさんと付き合えるような?」
「そうそう。いンだろ、一人くれぇは。」


オーブンにパイを押し込んだ飛鳥の横に行き、ニヤリと笑って肩に手を乗せる。
その汚い手を退けろと俺が怒鳴る前に、首を傾げた飛鳥が、目をパチクリとさせながら口を開いた。


「彼氏募集中のパティシエ仲間はいるけれど、女の子じゃないですよ?」
「……は?」
「パティシエって、意外と男性の方が多いんですよね。」


つまり、その友人は『男好きな男』という事。
怒鳴る気力もなくなったのか、ガックリと肩を落としたデスマスクの姿に、俺は込み上げる笑いを必死で抑えるばかりだった。



甘酸っぱいまま過ぎ行く誕生日



(どうして男の子じゃ駄目なんですか?)
(どうしてもこうしてもねぇ! シュラ! この天然女、なンとかしろ!)
(むぐむぐ、今日のチェリーパイは甘酸っぱさが絶妙だな。)
(オイコラ! 無視すンな!)



‐end‐





なかなか素敵な彼女が出来ない蟹さま、パイ生地に当たり散らすの巻w
そして、磨羯宮のバカップルは、今日も菓子馬鹿&天然で平和です、という意味不明なお話でしたw

2015.06.16



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