Chocolate Holiday



久し振りにキュッと肌寒くなった二月の休日。
特に何をする事もなく、訪れた巨蟹宮でダラダラと過ごしていた。
三時のお茶でも飲みたいんだけど。
そうデスマスクに言いつけて、温かなミルクティーを用意させていた、まさにその時。
二人で出掛けていたシュラと飛鳥が、楽しそうな様子で帰ってきた。


バレンタインが近い事から、アテネ市街でも大規模なチョコレート販売会が開かれていたのだ。
世界有数の有名チョコラティエの作品が多数集まるとあって、パティシエの飛鳥にとっては何を置いても出向きたい場所。
彼女はグチグチと渋るシュラを、あの手この手で宥めすかして、引き摺るようにアテネまで連れて行った。
人混み、特に、女性が多く集まる場所には激しく嫌悪感を抱くシュラの事。
また飛鳥を困らせるような態度を取ってはいないかと、少しだけ心配に思っていたのだが……。


「ただいま〜。」
「お帰り、飛鳥。シュラも。丁度、蟹がお茶を淹れてくれたところだ。そのコートを脱いで、ココに座ると良いよ。」
「オイ、コラ、テメェ! 人に用意させといて、自分が主人面すンじゃねぇぞ! ココは俺の宮だ!」


コートを脱いだシュラと飛鳥が席に着くのと同時、怒りマークを額に貼り付けた悪人顔の男がトレーを持って現れた。
休みの日もガミガミ煩い奴だ、唾がティーカップに飛ぶじゃないか。
まぁ、相手にしているだけ時間の無駄。
サラッと無視して、その手からトレーを奪い取る。


「外、凄く寒くて冷え切っちゃった。手も足先も冷たくなって。」
「温かいお茶は本当に助かる。身体の芯から冷えてしまったからな。」
「寒ぃ時にはイイだろと思って、生姜を少し入れといた。あったまると思うぜ。」
「わ、蜂蜜も入ってる。ジンジャーミルクティーだね。美味しい、ほっこりする。流石はデスさん。」
「おう、もっと褒めてイイぜ。褒めろ褒め称えろ。」
「調子に乗るな、蟹。」


いつもの遣り取りの合間に啜るハニージンジャーミルクティーは、温かくて、甘くて、それでいてピリリとスパイシーで。
こういう寒い日にはピッタリの飲み物だ。
口には決して出さないが、やはりデスマスクのこうしたチョイスは素晴らしいと思う。


「で、今日の成果はどうだったんだい、飛鳥? 欲しいものは買えたのかな?」
「見ての通りよ。コレって思ったのは全部、買ってきたから、毎日、ちょっとずつ試食して研究するの。ちょっとずつだからね。分かった、シュラ?」
「何故、そこで俺に念押しする?」
「だって、念を押して言っておかないと、シュラ、物凄い勢いで食べ切っちゃうんだもの。」
「あぁ、確かに。何も言わずに放っておいたら、数日でなくなるだろうね。」
「…………。」


言われて反論も出来ずに紅茶を啜るシュラ。
つまりは自覚があるって事だ。
これだけ皆で念押ししておけば、勝手に食い尽くしてしまう事もないだろう。
ない、と思いたい。


「お土産も買ってきたのよ。はい、これ。デスさんと、ディーテに。」
「お。コレ、イタリアの有名ショコラティエのチョコじゃねぇか。長蛇の列だって聞いたぜ。良く買えたなぁ。」
「あ、それはシュラが並んでくれたの。」
「シュラが?」
「そう。でも、シュラが並んだら、周りの人達が吃驚しちゃったのか、一人、二人と列から抜けていってね。気付いたら、列すらなくなってたの。どうしてだろ?」


それは多分、吃驚したというよりも、シュラの顔が怖かったんじゃないかと思うよ、飛鳥。
マフィアか何かと思われたのかもしれない。
ショコラティエにとっては、営業妨害以外の何ものでもないな、全く。





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