***



「てなワケで、大変な目に遭ったンだよ。テメェが留守にしてたせいでな。」
「それは別に、俺が居ても居なくても変わらなかったんじゃないのか?」
「アホ。絶えず菓子を食ってくれるテメェが居れば、他がとばっちり食う事はねぇだろが。自分の作った菓子を消費してくれるヤツがいない。寂しい。ストレスが溜まる。でもって、そっから十二宮の住人全員に、気味の悪ぃ菓子を食わせるなンて暴挙に出やがったンだ。」


凶悪犯並みに表情を歪ませて、一週間前の出来事を思い返すデスマスクは、このままでは飛鳥の首をキュッと絞めて、一思いに殺ってしまいそうな勢いに見えた。
これはマズいな、かなりヤバい。
暫く、飛鳥には外出させない方が良いだろう、身の安全が保障出来ない。


「終いには、麿眉羊に詰め寄られて、『貴方があんな気味の悪いものを、いつまでも宮内に留めておくから、飛鳥が毒されてしまったのです。お陰で、うちの貴鬼は半泣きで死仮面のクッキーを食べる羽目になったのですよ。傍迷惑も良いところです。』なンて、散々、嫌味を言われてなぁ。どう責任取ってくれンだ、黒山羊さんよぉ。ん?」
「それは……、すまなかったな。」


貴鬼にまで強要するとは、飛鳥の精神は余程、追い込まれていたのだろうか。
デスマスクにも、他の黄金聖闘士達にも申し訳なく思いながら、磨羯宮へと向かう階段を上った。
しかし、アフロディーテの奴。
飛鳥を止めるどころか、返って煽るとは、何を考えているんだ。
仕舞いには、白薔薇を使って手助けまでするとは……、呆れて物も言えん。


「戻ったぞ、飛鳥。」
「あ、シュラ! おかえり〜!」
「すまんな。随分と長い事、宮を空けてしまって。」
「仕方ないよ、シュラは聖闘士なんだから。それに、皆が何かと気に掛けてくれたから、何事もなく過ごせたし、平気平気。」


何事もなく、か……。
飛鳥にとって(アフロディーテも)は何事もなくとも、他の黄金達には大いに何事かあったようなのだがな。
しかも、当事者である飛鳥自身に、その自覚がないというのが一番の問題であって……。


無邪気にニコニコと微笑んで俺を出迎えてくれた飛鳥を見下ろし、複雑な気分で帰宅の言葉を交わす。
うっかり溜息を漏らさぬよう気持ちを引き締めて彼女の頬にキスを落としてから、その細い身体を軽く抱き締めると、もう一度、飛鳥の顔を見下ろした。
すると、どうだろう。
いつの間に、手に抱えていたのか、小さな籠いっぱいに盛られたクッキーを、ズイッと俺に向かって差し出してくるではないか。
しかも、満面の笑みは少しも絶やす事なくだ。


「はい、シュラ。お腹空いているでしょう? 夕食までは、まだ時間があるから、これでも食べて。」
「オイ、これ……。」
「ハロウィンに大量に焼き過ぎちゃって。まだ無くならないの。余り物でゴメンね、シュラ。」


俺の目の前に突き付けられたのは、山と盛られた噂の死仮面クッキーだった。
しかも、デスマスクの言う通り、かなりリアルな苦悶の表情をしている死仮面。
これを皆に食わせて回ったというのか?
貴鬼が半泣きになるのも、ムウがキレるのも当然だ。
正直、こんなもの怖くて食えるか。
食ったが最後、何かに祟られそうだぞ。


「この濃いキツネ色のが黒糖味。こっちの薄い茶色のはきな粉ね。生地に黒糖ときな粉を、それぞれ混ぜ込んでみたの。あ、この灰色のは黒胡麻ペーストを混ぜたのよ。和菓子と洋菓子の絶妙なミックスで美味しいって、沙織さんが褒めてくれたの。」
「あ、アテナが、そのような事を……。」
「アフロディーテも芸術的で素晴らしいって喜んでた。」
「アイツ……。」


アテナと良い、アフロディーテと良い、二人して飛鳥を甘やかし過ぎだろう。
そう思いつつも、彼女の差し出すクッキーを断る訳にもいかず、渋々ながら黒糖死仮面クッキーを摘む。


「……美味い。」
「でしょう! ここ最近で、一番の自信作だったの!」


だが、この形はないと思うぞ。
聞こえるか聞こえないか程度の呟きを、ついつい漏らしてしまった俺に対し、飛鳥は「だってハロウィンだし、お化けとか怖いものとか考えたら、これしか思い浮かばなくて。」などと、小さく肩を竦める。
その仕草の愛らしさと、口内に広がるクッキーの甘く香ばしい味わいの深さを思えば、飛鳥の取った行動など些細なものだと感じてしまっている俺がいた。


結局、彼女を一番に甘やかしているのは、この俺なのだろう。



可愛い彼女の、可愛い悪戯



(という訳で、飛鳥の可愛さに免じて許してやってくれ。)
(オイ、コラ! ドコが可愛いんだ、アレの! 激しく悪質だろ!)



‐end‐





夢主さんの天然具合が増長しとる(汗)
そして、死仮面クッキーを突き付けられて怯む黄金兄さん達を脅すように、夢主さんの背後からドス黒い微笑を送るディーテさま、怖いです(苦笑)
拒否した瞬間に、白薔薇が心臓に突き刺さるとか、どんな拷問(ガクブル!)
そんなこんなで今日も聖域は平和ですw

2014.11.16



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