しかし、そんな俺の親切心も、飛鳥には届いていなかったのか。
いや、彼女の持ち前の好奇心で、その恐ろしいばかりの死仮面を、観察してみたくなったらしい。
ソロッと俺の背後から首を出し、奇妙な叫び声を上げる死仮面を、ジーッと眺めているではないか。
ただし、シッカリと俺を盾にする事は忘れていないが。


「平気なのか、飛鳥?」
「平気ではないけど、滅多にお目に掛かれるものでもないし。」


頻繁にお目に掛かれては困るんだがな。
今でこそ数は激減したが、巨蟹宮の壁や天井には変わらず死仮面が現れている。
だからこそ、それを見てしまわないようにと、飛鳥一人では巨蟹宮には行かせないし、通り抜ける必要がある時には、俺が彼女を抱いて光速で走り抜けている。
そんな今までの配慮も、どうやら無駄だったようだ。


「中々に興味深い形してますよね。」
「あ? アレが興味深ぇってか。」
「はい。のっぺりとしていて、それでいて悲しい気持ちが一目で分かる程にハッキリと表面に現れていて。」


そう言うと、何かを閃いたのか、ハッと息を飲んだ後、慌ててキッチンへと駆け込んで行った飛鳥。
あぁ、これは、またいつものあれだ。
彼女の気が済むまで、キッチンから延々と出てこないコース決定だ。


「なンだ、ありゃ?」
「創作意欲を掻き立てられたのだろう。暫くキッチンに籠もっているだろうから、邪魔するなよ、デスマスク。」
「創作意欲だ? あの死仮面を見て、か?」
「いつも突然、閃くんだ。今まで、見た事もないようなものを目にして、何らかの刺激になったのだろう。」
「あンなモンが刺激になるとはねぇ。やっぱ訳分かンねぇ女だわ。」


それから、デスマスクと次回の任務について、ああだこうだと議論を交わしていた間に、ある程度の時間が過ぎていた。
議論が収束し、ホッと一息吐きながら、あれから飛鳥はどうしたかと思いを馳せる。
すると、タイミングを見計らったように、彼女が満面の笑みでキッチンから出てきた。
手には何かが乗ったトレーを持っている。


「見て! 新作和菓子! 凄いのよ!」
「ほう、どれどれ。……って、死仮面じゃねぇかっ!」


怒り狂ったデスマスクが、ダンと靴を床に打ち付けて立ち上がる。
まぁ、奴が怒るのも無理はない。
何しろ、飛鳥が差し出した皿の上には、卵大の大きさをした、まるで死仮面そのものの和菓子が乗っていたのだから。
しかし、死仮面とはいえ良く出来ている。
血の気のない灰色の顔色、落ち窪んだ目、痩せこけた頬、そして、悲痛を叫ぶ口。


「中には餡が入っているの。外側は白隠元の餡に擦った黒胡麻を加えて灰色を出してみました。後は形を上手く作り上げるだけだから、材料さえ揃っていれば、至って簡単ね。」
「簡単ね、じゃねぇっ! 食えるか、こンなモンッ!!」
「ええっ? 駄目ですか、コレ?」
「駄目に決まってンだろっ!!」


憤怒の様相で詰め寄るデスマスクを後目に、飛鳥はしょんぼりと皿を掲げて、力作の小さな死仮面を眺めている。
確かに、死仮面を和菓子のモチーフにするのはどうかと思うが、しかし、飛鳥が一生懸命作ったものだ。
ジックリと眺めれば、次第に可愛くも見えてくる。
いや、それだけではない。


「……意外と美味そうじゃないか?」
「オイ……。シュラ、オマエ、まさか……。」


――ひょい、ぱくっ。


手にした死仮面な和菓子を手に取り、半分を口の中に放り込んだ。
見た目はアレだが、流石に飛鳥の作った和菓子、味は素晴らしかった。
甘過ぎない餡と、口の中に広がる黒胡麻の香ばしい味わい。
これは実に美味い和菓子だ。


「て、テメッ! 食ったのか?! 食いやがったのか、死仮面を?!」
「食ったぞ。見た目はグロいが美味かった。」
「最低だな、テメェ! 絶交だ! あぁ、絶交だ!!」


何やらギャーギャーと喚き立てて、部屋を出て行こうとする。
そんなデスマスクを引き留め、飛鳥は「これ、どうぞ。持って帰ってね。」と、満面の笑みで小さな箱を差し出した。
その箱の中には、飛鳥お手製の死仮面和菓子がギッシリと詰め込まれていた。



美味しければ問題なし?



(デスマスク。あの死仮面、食ったか?)
(あぁ……。意外と美味かったわ。)
(だろう。)
(つか、和菓子って、見た目の繊細さがウリじゃなかったのかよ。)



‐end‐





死仮面の形をした和菓子があったら気持ち悪いよねと、不意に浮かんで、このパティシエ夢主さんなら何でも作りそうだと思い至り、作らせてみました(苦笑)
見た目は最悪なのに、食べたら美味しいとか面白そうです。
しかも、食べるのに物凄く勇気のいる和菓子ですw

2014.06.08



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