petit four的クリスマスの準備



肩の凝る執務仕事を終えて、自宮へと帰宅した夕方。
部屋の奥からは、甘い甘い匂いが漂ってくる。
クリスマスも近い、飛鳥が皆に配る菓子を焼いているのだろう。


「……良い匂いだな。」
「あ、シュラ。おかえりー。」
「クッキーか。美味そうだ。」
「シュラの分は別にあるから、摘まみ食いは勘弁してね。」


匂いに釣られてキッチンを覗くと、焼き上がったクッキーに、せっせと飛鳥がアイシングを施しているところだった。
クリスマスツリー型、星型、ジンジャーマンと、クリスマス定番の形をしたクッキーが並ぶ中、今、彼女がアイシングをしている茶色のチョコクッキーはというと……。


「何故に、熊?」
「可愛いでしょー、渾身の熊さん。」
「そんなに力を入れて熊クッキーを作る意味が分からん。それ以前に、クリスマスに熊の意味が分からん。」
「不思議と熊さんが浮かんできて、これはクッキーにしなければと……。」


増々、意味が分からん。
やや天然な飛鳥の事だ、これ以上、アレコレと聞いたところで無駄だろう。
会話の間にも、飛鳥は茶色い顔だけの熊クッキーにアイシングを続けている。
気付けば、その数がツリーや星を合わせた数よりも多くなっていた。
クリスマスモチーフのクッキーよりも、熊のクッキーの方が多いとは。
一体、何のつもりなんだ、飛鳥は?
これをクリスマスプレゼントとして皆に配るつもりなのか?


「山羊さんの方が良かった?」
「……それは止めろ。」
「あるよ、山羊さんのクッキー型。」
「だから、止めてくれ。」


そう言って、飛鳥は右手に山羊のクッキー型、左手に蟹のクッキー型を持って、にっこりと笑う。
山羊とセットで蟹も作る気だったのなら、全力で止めなければ。
そんなもの、皆に配られた日には、恥ずかしくて聖域内を歩けなくなる。


「可愛い熊さんに、山羊さんと蟹さんもセットにしたら、もっと可愛いのに。」
「それ以上、言ったら、流石の俺でも怒るぞ。」
「おおっ、怖い怖い。山羊さん、怖〜い。」
「山羊ではない。」


アイシングを終えた熊クッキーを自分の瞳の前に翳し、俺の鋭い視線を逸らそうとする飛鳥。
右がニンマリと笑った熊、左がウインクをしている熊。
両の瞳が熊に置き換わった飛鳥の顔は可笑しくて愛らしくて、俺の怒る気力も見事に萎えた。


「それを皆に配る時に、俺も一緒に行かなきゃならないと思うと、気が滅入るな。」
「クリスマスプレゼントを配るスイーツサンタさんになるのに、気が滅入るなんて言っちゃ駄目。」
「荷物持ちなら、アフロディーテにでも頼めば良いだろう。」
「ディーテは便利屋さんじゃないよ。それに今年のクリスマスは外地任務だって。」
「それは残念だな。」
「スイーツサンタさんには突っ込まないんだね、シュラ。」


突っ込むだけ、無駄だと分かっているからな。
どうせ返ってくるのは、意味不明の答えだ。
付き合ってられん。


「腹が減った。俺の分のクッキーは何処だ?」
「はいはい、スイーツサンタさんならぬ、スイーツ魔人さん。」
「魔人でもない。」


フンと鼻を鳴らして、飛鳥が手に持っていた熊のクッキーを奪った。
彼女が奪い返そうとする前に、それを口の中に放り込む。
愛らしい顔の熊は、口の中でホロリと解けて、俺の嗅覚と味覚と胃袋を、甘い幸福で満たした。
見た目がどうであれ、飛鳥の作るスイーツは、いついかなる時でも間違いなく美味いのだ。



クリスマスよりも甘いスイーツ



(……美味い。)
(見た目だけじゃないのよ、私の作るクッキーは。)



‐end‐





可愛い熊さんクッキーを(´〜`)モグモグする山羊さまを眺めたいですw
ひたすらモグモグする山羊さまください、クリスマスプレゼントにw

2020.12.23



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