petit four的下着論争



磨羯宮に帰り着いたのは、聖域の大時計が丁度五時を告げたのと同時だった。
執務当番の時は、いつも帰宅は六時近くなる。
だが、今日は書類の処理もチェックも驚く程に早く終わり、他に片付けなければならぬ仕事も特になかったので、普段より一時間も早い帰宅となった。
今日の執務当番が、俺とカミュ、ムウ、そして、いつものサガという、無駄話などの少ないメンツだったからだろうか。
いつも、このくらい迅速に書類の処理が進めば良いのだが、中々そうはいかない。


五時か……。
この時間だと、飛鳥は夕飯の支度をしている頃だな。
そう思いつつプライベートな部屋へと入ったのだが、キッチンからは物音一つ聞こえてこない。
代わりに、奥の寝室のドアの隙間から、細く光が漏れ出ているのが見えた。
こんな時間に、寝室で何をしているのだ、飛鳥は?
気になって、音を立てないようコッソリと覗いてみる。
すると、そこには予想だにしなかった光景が広がっていて、俺は呆然、いや、唖然としてしまった。


「……何をしているのだ、飛鳥?」
「わっ?! わわっ?! あ、シュラ! お帰りなさい!」
「あぁ、ただいま。しかし、何だ、これは?」
「何って……、見ての通りですよ。」


何故かは分からんが、飛鳥はクローゼットの中から俺の下着、つまり俺のボクサーパンツをあるだけ出して、それを、ベッドの上一面に広げ、その中に埋もれていた。
男物のパンツの真ん中に鎮座し、そのパンツを手に取って繁々と眺めている飛鳥。
見ての通りと言われたところで、その異常な光景からは、一体、何をしているのか、まるで理解出来ない。


「俺のパンツに何か問題でもあるのか?」
「問題というより、劣化が激しいというか、痛むのが早過ぎるというか……。」
「……は?」


俺が目を丸くしている眼前で、飛鳥は手にしていたパンツを放り投げ、また別の一枚を手元に引き寄せた。
そして、「あぁ、これも! これも!」と、何やらブツブツ呟きながら、パンツをチェックしては放り投げる事を繰り返している。
一体、何が駄目なんだ?
俺のパンツの、何がそんなに気に食わない?


「見て、これ。ウエストのゴムがダルンダルンに緩んでるの。こっちは布地がすれて薄くなってるし、ココなんて解れて穴が開きそう。どれも新しいのに交換してから、まだ一か月しか経ってないのに……。」
「それは……、仕方ないだろう。」


俺は盛大に溜息を吐きつつ、ボクサーパンツの散乱するベッドの上に腰を下ろした。
飛鳥は時々、突拍子のない事を言い出す。
一般の常識とは大きくズレた感覚を持っているというか、人が思い付かないような面白い考え方をする事があるのだ。
まぁ、常識から外れ捲っている聖域に所属する、常識外の存在である黄金聖闘士の俺が、常識云々などと言える立場ではないがな。


「仕方ないって……。はっ?! もしや、そんなに劣化が進む程、何度も脱ぎ着をしているの、パンツを?! 私の知らないところで?!」
「そんな訳ないだろ。どうして、そうなる?」
「だって、それだけ劣化するって事は、何度も脱ぎ着しているって事でしょ。私の前では、そんなには脱ぎ着してないから、だったら余所でしているのかなと……。」
「お前以外の前で、何故にパンツを脱がねばならん……。」


ズキズキと痛む眉間を押さえ、もう一度、溜息を吐いた。
まさかパンツの劣化から、浮気を疑われるとは夢にも思わなかった。
脱ぎ着による劣化だというなら、俺はとんでもない回数の浮気をしている事になる。


「聖闘士の速さは理解しているだろう。一般人の百倍、いや、千倍かもしれん。動きが速いという事は、それだけ動く距離も量も増えるという事。そんな俺が日々、任務や修練、トレーニングで膨大な運動量をこなしているんだ。身に着けているものも、それに合わせて当然、劣化は早く進む。」
「でも、パンツだけ?」
「パンツだけじゃない。修練着も、聖衣の下に着用するアンダーウェアもだ。」


修練着もアンダーウェアも、下着と違って聖域から支給される。
劣化に気付かない内に交換されてしまうので、目に留まらなかっただけ。
パンツは……、俺が買う事もあるが、殆どは飛鳥が買っておいてくれる。
洗濯をするのも彼女だ。
だからこそ、目に留まるし、気になったのだろう。


「安心しろ。お前以外の女の前では、服もパンツも脱がん。浮気など百パーセント有り得ん。」
「ホントに?」
「嘘を吐く理由がないだろ。」


パンツを握り締めたまま、上目遣いで俺の顔を見上げる飛鳥を安心させるように、俺は彼女の頭を優しく撫でてやった。
小動物のようで、子供のようで、それでいて、時には艶のある大人の女にもなる、不思議な彼女。
パンツに埋もれた滑稽な状況でありながらも、そんな飛鳥を愛しく思い、俺はその額に小さくキスを一つ、落としたのだった。



俺の彼女は不思議ちゃん



(でも、パンツがこんなに消耗品だなんて、不経済過ぎるわ。)
(だから、それは仕方ないだろ。)
(男物のパンツって、意外と高いんだよ。はぁ……。)



‐end‐





ずっと書く書くと言っていて、中々書けなかった、書く書く詐欺状態だった山羊さまのおパンツ話です(苦笑)
彼等は光速で動くから、パンツも光速で劣化する……、のではないかと。
山羊さまのパンツを繁々と眺める夢主さんが書きたかっただけです、スミマセン(汗)

2019.01.29



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