petit four的秋の雨



しとしとと雨が降っていた。
大雨でも小雨でもなく、傘の内側までは入り込んでこないが、それなりに靴と足元を濡らす雨。
夏の終わりの雨……、いや、違うな。
まだ肌寒さこそないが、この半月、急速に増しつつある夜の闇の長さを思えば、これは秋の始まりの雨と言うべきか。
十二宮の長い階段を取り巻く木々が優しい雨に打たれる様を眺めながら、ゆっくりと下っていく帰り道。
だが、景色の変化を楽しみながら歩くなど、無粋な俺には似合わないとでも言いたげに、グウゥゥッと大きく腹の音が鳴った。


情緒も何もあったもんじゃないな。
至極、現実的な自分の腹と、正直過ぎる空腹具合に、自分自身で幻滅する日が来ようとは。
何もこんな時に空腹を訴える必要などないのに、生真面目な自分の腹に失望しつつ、軽く眉間を押さえる。
ノンビリとしていた足取りを早足へと変えて、目の前に迫っていた宮へと向かった。
そこはシュラの宮だ、行けば何らかの甘い物が備えてある。
シュラのオヤツが絶える事はないのだ。


「邪魔をする。」
「こんにちは、アイオリア。」
「おや? 何の用だい、アイオリア?」


訪れた磨羯宮のリビングでは、シュラと飛鳥……、ではなく、アフロディーテと飛鳥が、菓子の袋詰め作業を行っていた。
シュラの姿はない。
確か、午後からは休みだったと思ったのだが……。


「いや、その……。ちょっと小腹が空いてしまってな。何か小さな菓子を一つでも、摘まませてもらえないかと……。」
「成る程ね。脳味噌の栄養補給に来たって訳か。」
「……は?」
「キミは今日、執務当番だったのだろう? 余り得意でもなければ、好きでもないデスクワークに頭がパンクして、脳が栄養不足になったんだよ。ブドウ糖でも舐めておけば良いさ。直ぐに回復する。」


毒舌気味のアフロディーテに対して、俺は軽く肩を竦めて溜息を吐き、飛鳥は楽しそうにクスクスと笑った。
だが、手だけは一向に止まる気配はない。
山と積まれたウサギ形クッキーとクマ形クッキーを、飛鳥がテキパキと袋に入れ、それを受け取ったアフロディーテが、赤と青のリボンで封をしていく。
聞けば、孤児院に持っていく土産の菓子の製作をアテナから依頼されたそうだ。
慣れた無駄のない手付き、見事な流れ作業。
感心しながら、飛鳥の差し出してくれたクマ形クッキーを貪る。
うん、美味い。


「ところで、シュラは?」
「人馬宮。トレーニングに行っているの。」
「トレーニング?」
「雨降りだからね、今日は。」


雨降りだからといって外での修練をしない訳じゃないのだが、今日は室内トレーニングに没頭するつもりなのか。
ならば、兄さんの宮はうってつけ、あそこならトレーニング器具も色々と揃っている。
そうだな、俺も頭を使い過ぎて、身体が凝り固まってきたところだ。
この後、人馬宮に寄って、少し身体を動かすのも悪くない。


「元気ね。執務の後に、更にトレーニングまでするなんて。」
「運動がストレス発散になるのさ。流石はアイオリア。脳へ糖分での栄養を与えるより、筋肉へ過度な負荷での刺激を与える方が、疲労回復になるなんてね。脳筋の典型だな。」


今日はいつにも増して薔薇の棘による攻撃が激しいな。
シュラに飛鳥の手伝いを押し付けられて苛立っているのか、ただ単に、雨降りが憂鬱なのか。
いずれにしても、脳に糖分が足りてないのは、俺よりもアフロディーテの方だな。
俺は手の中に残っていた、もう一枚のクッキー、ウサギ形クッキーをアフロディーテの口の中へと突っ込むと、驚いて目を見開いたヤツの顔を見て、ケタケタと笑ったのだった。



リフレッシュは筋トレで!



(もごもご……、あ、アイオリアッ!)
(じゃ、俺は行くから。)
(バイバ〜イ、アイオリア〜。)
(ま、待て! もごもご……。)



‐end‐





初秋の雨にセンチメンタルになるリアが可愛いw
お魚さまが不機嫌な理由は、夢主さんのお手伝いを押し付けられたからではありません、寧ろ、彼女と二人きりなので喜んでいる筈。
という訳で、答え合わせは次回、山羊さまと夢主さんのピロートーク編で(え?)

2018.09.20



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