Trick or Love



「はい、飛鳥。コッチのは全部、終わったよ。」
「ありがと、ディーテ。じゃあ、次はコレね。」
「……まだ、あるのか。」


小さなバスケットいっぱいに盛られた、飛鳥手作りのピーナッツタフィー。
それをハロウィンカラーのセロファンで次々と包む事、三十分。
やっと全てを包み終えたと思ったら、次は別のお菓子が彼女の背後から現れた。
同じ大きさのバスケットに盛られたソレは、淡い緑やピンク、黄色、白など、ふんわりとした彩りをした、柔らかな何か。
触ってみるとフニフニとしている。


「これってマシュマロかい?」
「ギモーブって言うのよ。まぁ、マシュマロで正解なんだけどね。」
「ふーん、美味しそうだね。」
「あ、コラ、ディーテ! 摘み食いは駄目!」
「良いじゃないか。お手伝いしてるんだし。」
「それは、そうだけど……。」


ブツブツと何か言いたげにコチラを上目遣いで見遣る飛鳥を余所に、私はそのギモーブとやらを、テキパキと袋に詰めていった。
小さな丸いソレを二つずつ、透明なセロファンの袋に入れて、上をオレンジのリボンで止める。
次の袋は紫のリボン、その次は黒のリボン。
そうして手を止めずに作業を繰り返している内に、バスケットの中は直ぐに袋詰めされたギモーブで山になった。


「ん? これはさっきのと味が違うね。」
「あ、また摘み食いしたの?!」
「少しくらい大目に見てくれても良いんじゃない? 何せタダ働きなんだから。」
「でも、これは沙織さんからの依頼だし……。」


飛鳥が、こうして小分けにされたお菓子を沢山、用意しているのには、それなりの訳がある。
名目上、この聖域の専任パティシエとなっている飛鳥に、アテナが依頼をしたのだ。
聖闘士候補生の子供達に配るハロウィンのお菓子を、山程、いっぱい、沢山、作って欲しいのだと。


普段は、アテナの為のお茶菓子、もしくは、シュラが食べる分だけの甘い物しか作らない飛鳥。
大きなパーティーでもあれば別だが、それもアテナの誕生日くらいだ。
そんな環境では、存分に腕が振るえる機会もなく、だからこそ、大量のお菓子を好きなだけ作れるとあって、この依頼に目を輝かせたのは言うまでもなかった。


「全く、今の候補生達は恵まれているというか、甘やかされているというか。これも時代なのかな? 私達が子供の頃には、ハロウィンなんてありはしなかったけど。」
「やっぱり修行三昧の日々だったの?」
「そりゃあ、そうさ。聖闘士になるために必死だったしね。あ、でも、クリスマスだけは、サガがプレゼントをくれたんだ。小さな袋に可愛いキャンディーが三つだけ。簡素なものだったけど、それでも凄く嬉しかったな。」


それを不服に思ったデスマスクが、一度だけサガに文句を言ったら、お前には二度とやらんと、怒られた事もあった。
あの後、デスマスクは土下座して謝ってたっけ。
柱の陰から覗き見していたシュラと私は大笑いをして、怒り狂ったデスマスクに黄泉比良坂に飛ばされ掛けた。
そんな遠い昔の思い出話をしたら、飛鳥も楽しそうに笑って、もっと聞きたいと私に強請った。
この聖域の中での話は、彼女にとっては全てが物珍しいのだ。
楽しい話も、悲しい話も、何でも彼女は聞きたがる。


「これ、ちょっと酸っぱい?」
「どれ? 何色の食べたの?」
「ピンク、だったかな。」
「ピンクはラズベリー味なの。」
「あぁ、だからか。」
「黄色がオレンジ、緑はミント、白はプレーン。ふわっふわで美味しいでしょ?」
「キミの作ったものなら、何でも美味しいよ。飛鳥のお菓子には、癒し効果があるみたいだ。」
「ふふっ。ありがと、ディーテ。」


彼女の作った甘いお菓子を口に入れると、不思議と心がホッと休まる。
これは本当だった。
それは私だけでなく、アテナも、シオン様やサガも、同じように言っている。
そして、彼女の恋人であるシュラが、一番にそれを感じているだろう。
飛鳥のケーキを食べている時、シュラは本当に幸せそうな顔をする。





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