「……で、一泊二日の予定を延長して、二泊三日にしたという訳かい?」


日本でのアテナ警護の任務と、極々短い休暇を終えて戻ってきたギリシャ・聖域。
その日の午後には、悪友達が不機嫌を顔に貼り付けて、磨羯宮へと押し掛けてきた。
そんな様子の奴等の表情には気が付いていないのか、飛鳥はにこやかな笑顔でお茶を用意し、そして、買ってきた土産を嬉々として差し出す。


「だって、たった一泊じゃ、あの旅館の素晴らしさを全く堪能出来ないし、満喫出来ないんですもの。」
「だな。料理もスイーツも、数日は滞在しないと制覇出来ん。そのくらい種類豊富だった。」
「オマエ等ばっか息抜きしやがってよぉ。しかも、温泉だぁ? 高級旅館だぁ? ケッ、贅沢しやがって。」


文句を垂れつつ、受け取った土産の封をガサガサと解く。
アフロディーテには、このところ海外でも評価の高い日本産の紅茶・べにふうきと、ブルーベリーに似ているもののクドさのないサッパリとした甘みが特徴のハスカップジャムのセット。
デスマスクにはウィスキーのボトル一本。
彼の地は日本でも有数のウィスキー生産地であり、施設見学に行った折りに試飲したウィスキーは本当に美味かった。


「たまには飛鳥にもリフレッシュの時間が必要だ。一泊では折角のエステにも行けんかったしな。」
「へぇ、エステもあるんだね。」
「うん、宿泊客専用のエステがあってね。一泊だと時間がなくて無理だったけど、滞在を一日延ばしたから。シュラが午前中に山にトレーニングに行っている間に、私はエステでゆっくり綺麗にしてもらったの。」


思い出してキャッキャと喜ぶ飛鳥。
温泉エステが相当にお気に召したようで、俺がトレーニングから戻って昼食に合流した時も、大層ご満悦な様子だった。
聖域に居れば、エステなど行ける機会も少ないからな。
他人のためではなく、自分のためだけに時間を使える事が、余程、嬉しかったのだろう。
まぁ、その夜に、艶々しっとり肌になった飛鳥の肌を堪能出来た俺も、それなりに嬉しかったのだが。


「オイ。ジイサンは山に芝刈りに、バアサンは川へ洗濯に、みてぇに言ってっけど、鍛錬してンのはシュラだけで、オマエは一人で優雅に暇潰しシてるだけじゃねぇか。自堕落か、あ?」
「構わん。目的は飛鳥のリフレッシュだと言った筈だ。」
「結局はテメェもイイ思いしてンだったな。警護の任務はこなしたと言っても、休暇中は、たらふく食って、飲んで、スイーツ三昧、エッチ三昧だったンだろ? 朝から晩まで何回ヤリ捲った? あ?」
「そんなもの、数え切れない程に決まってるだろう。二人きりで温泉なのだからな。」
「キミ達さぁ……。組み敷かれている張本人の飛鳥が目の前に居るんだから、そういう下衆な会話は止めなよ……。」


呆れ声でアフロディーテが言い放つ。
しかし、俺とデスマスクの口喧嘩は止められないと知っているからか、直ぐに諦めて、飛鳥の気を逸らす事に専念し出したようだ。
土産の紅茶セットを広げて、何やら話し込んでいる。


「土産程度で誤魔化されねぇぞ。」
「だったら返せ。美味いウィスキーだからな、俺が飲む。」
「誰がテメェに返すかよ。どうせなら、もっと大量に買ってこいってンだ。一本程度なンてケチい事しねぇで。」
「悔しいのか? だったら、貴様も彼女を作って、あの旅館に泊まりに行くのだな。良いところだったぞ、カップルには最適だ。部屋付きの風呂もあり、壁も厚い。エッチに遠慮はいらん。」
「あぁ、直ぐにでも行ってやるさ。女なんぞ、ちょいと俺が声を掛ければ、コロッと落ちンだからな。」


我ながら見苦しい罵り合いだとは思う。
先程から会話を止めたアフロディーテと飛鳥が、冷たい視線で俺達を眺めているのも分かっている。
しかし、まぁ、これも平和な日常の一環、いつもと変わらぬ風景という事で良いではないか。
楽しい休暇を満喫した後だ。
また、これから殺伐とした任務に追われる日々が来るのだからな。



甘い夢を胸に、頑張る日々を



(飛鳥。明日にでも良いマッサージに連れていって上げようか?)
(マッサージ? どうして?)
(だって辛いだろう、腰が。何なら私が直々にマッサージをして上げても良いけど?)
(そんな事は絶対に駄目だ。余計な事をするな、アフロディーテ。)
(テメェも結局はタダのスケベだな。触る気満々じゃねぇか……。)



‐end‐





やっと終わりましたイチャイチャ温泉話。
そして、うっかり年を越して更新を続けてしまった日本滞在編(汗)
ついつい楽しくてダラダラ書き過ぎました、反省ですね。

2017.01.26〜2017.02.28



- 13/13 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -