petit four的絶品チーズケーキ



煌びやかな照明を受けて、華やかに輝くガラスケースの向こう側。
上品に並べられた生チョコレートの豪華な佇まいに心を虜にされた女達が、目を見開いて魅入っている姿を横目で眺めながら。
俺達は注文したチーズケーキの到着を今か今かと待ち詫びていた。
店舗に併設されたカフェスペースでは、この店自慢のチーズケーキが味わえるとあって、そこは平日の夕刻近くでも随分と混雑していた。


「生チョコは買わなくて良いのか?」
「買うよ。ケーキ、食べ終わってからね。要冷蔵品だもの、お店を出るギリギリ前に買わないと。」
「この後は宿に直行だろう。着いて直ぐに食ってしまえば問題ない。」
「また、そういう事を言うんだから、この甘党山羊さんは。」


困ったような、窘めるような、そんな笑みを浮かべる飛鳥。
俺は至って本気で言っているのだが、飛鳥は冗談と受け取ったらしい。
少々、不機嫌になって腕をグッと組んで背を反らした俺だったが、丁度その時に運ばれてきたチーズケーキに思わず視線を奪われてしまった。
カタリとテーブルに置かれたケーキを無意識に目で追ってしまったせいか、反らした背が、また前のめりに丸くなる。


「真っ白な雪の塊みたいね。綺麗だし、美味しそう。」
「あぁ、美味いぞ。」
「やだ。もう食べてるの、シュラ?」


さっぱりと軽く酸味の強いチーズと、濃厚でもったりと甘いチーズの二層になったケーキは、二つの風味が口の中で溶けて混じり合い、絶妙な味わいと甘さとを引き出していた。
スポンジ部分がなく、しっとりとしたスフレとクリームの中間くらいの柔らかさ。
それを一度凍らせているのだろう。
半分ほど溶けた状態のケーキはシャリシャリとした感触も含まれていて、今まで食べた事のない未知の食感を生み出している。


「うん、美味しい。甘過ぎず、それでいてサッパリし過ぎず、コクもあって味わい深くて。総じて言えば、幸せの味かな。」
「面白い表現をする。ま、同感だが。」


店員を呼び、もう一つ、追加で注文をする。
飛鳥は露骨に非難めいた顔をしたが、フンと鼻を鳴らして一蹴した。
このケーキは、ココ以外では絶対に味わえない事が分かったのだから、もっと食っておきたいと思うのは当然だろう。


「お宿でも美味しいお料理が待っているんだけどな。」
「それはそれ、これはこれだ。」
「少し食べ過ぎじゃないですか、シュラさん。」
「その分は消費している、問題ない。」


旅行中といえど、朝のトレーニングは欠かさずに行っている。
それに飛鳥と毎夜、激しい運動もこなしている事だし、十分にカロリーは消費している筈だ。


「それは運動とは言いません。」
「運動だろう。終わった後は汗だくで、それなりに息も上がる。」
「もうっ! 違うって言ったら違うの! 今夜は絶対にシませんからね!」
「温泉泊なのにか? それが楽しみだろうに。」
「温泉の楽しみは、お風呂とお料理。ソレはオマケ。」


俺にとってはオマケじゃないんだがな。
寧ろ本命で、何より楽しみな事だ。
いつもと違う場所というのも燃えるし、畳に布団というのも燃えるし、温泉上がりのツルツル艶々した飛鳥の肌にも燃えるだろう。


「エッチ、変態、ドスケベ……。」
「何を今更。」
「ムッツリ山羊さんに命令。今夜はエッチ禁止です。」
「関係ないな、そんなもの。」


真っ赤になって俯いた飛鳥の隙を突き、皿に残っていたケーキをフォークで一掬い、掻っ攫ってやった。
「ああっ!」と驚嘆の声を上げる飛鳥に見せつけるように、ゆっくりと自分の口の中へケーキを迎え入れる。
それを見て、落胆の表情を見せた彼女は、それはそれで何とも愛らしかった。



心も味覚も甘さたっぷりで



(そう落ち込むな。ほら、新しいケーキがきたから、半分やる。)
(もうっ、それくらいじゃ許して上げません。)
(なら、今夜、たっぷりと慰めてやろう。布団の中でな。)
(また、そうやって蒸し返すんだから! 最低!)



‐end‐





ムッツリ山羊さま降臨中ですw
聖域にいると邪魔が多くて迂闊にイチャつけないので、日本滞在中にココぞとばかりにハッスルする山羊さまなのですw

2016.12.09



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