「……で、オマエ、何しに来たよ?」
「あぁ、お前を迎えにな。というよりは、呼びに来たと言ったところか。」
「ンだよ。もう、そんな時間か……。」


アイラが傍にいる手前、煙草が吸えない事にちょっとイラつく俺。
いや、普段ならアイラがそこにいれば、煙草なンて吸えなかろうが全然気にもならねぇんだが。
今は、流石に落ちつかねぇと言うか、なぁ?
全く持って俺らしくないカッチリした服装とイイ、周りのヤツ等を含め妙に浮き足立った雰囲気とイイ。
今日と言う日の何もかもが、俺の余裕と落ち着きを奪いやがる。
そして、俺が苛々を誤魔化すためにチッと舌を鳴らした、その時だった。


――ガタガタガタッ!


奥の部屋から聞こえてきた怪しげな物音。
あの部屋はさっきまでアイラがいた部屋だ。
つー事はだ。
物音の発生源はたった一つ、あのヤローしかいねぇ。


「……あれ? あれあれ? アイラ? アイラー? 何処、行っちゃったんだ?」


次いで聞こえてきた素っ頓狂な声に、ハッキリと確信する。
やぁっっっと帰って来やがったな、あの似非笑顔の策士オヤジが!


「アイラー? って、あっ!」
「『あ』じゃねぇ! 『あ』じゃ! テメェ、アイラ放っといて、何処に行ってやがった?! 答えによっては、タダじゃ済まねぇぞ!」
「あ、いや、ちょっとな……。ハハッ。」


アイラの姿を探してか、キョロキョロとしながら奥の部屋から出てきたアイオロス。
そこに俺達――、怒りモードの俺と、能面顔のシュラと、シュラにしがみ付くアイラの姿を見つけ、「しまった。」といった顔をしてヤツは立ち止まった。


そこで素直に謝れば、俺だって許してやらない事もない。
俺にしたって、何もこンな日に、キレたくなンかねぇんだ。
が……、ヤツは謝る気配どころか、全くその気すらもないようで、ヘラヘラと笑いながら誤魔化そうとしてやがる。
アイラを泣かせといて反省の色も見せねぇなんて、ぜってーに許さん!!


「テメッ、このヘラヘラ笑ってんじゃねぇ! 大体、オマエ、俺のいるこのリビングを通らねぇで、どうやって出て行きやがった?!」
「あぁ、それならデスマスクに見つからないようにと思ってさ。窓から?」
「ぁあ? 窓だぁ?」
「おい、デスマスク。アイラの部屋の窓の外って、確か……。」
「崖、だな……。」


おいおい、幾ら黄金聖闘士だからって、崖から飛び降りてタダで済むような、そンな楽な高さじゃねぇぞ?!
しかも、そこをよじ登って戻って来やがったってか?
見たところ、服は乱れどころか汚れすらない。
コイツ、一般人の常識どころか、聖闘士の常識でも計れねぇんじゃねぇの?
何処までトンでもねぇ男なんだよ、アイオロス……。


「……行くぞ、シュラ。アイラも。」
「ん? 良いのか?」
「あぁ、イイわ。もうヤる気削がれちまった。」


ピリピリとしたこの場の空気にそぐわない笑顔を、一人、浮かべ続けるアイオロスを軽く無視し、俺はズカズカとドアに向かって歩き出した。
すれ違いざまに、シュラにビッタリとくっ付いたままのアイラの髪をクシャッとひと撫でして。


「でちちゃま、どっかいくの?」
「おう、上に行くぞ。オマエ等も一緒にな。」


プライベートルームから宮内へと出る俺。
その後から、アイラを抱いて付いて来るシュラ。
そして、慌てて俺達を追ってくるアイオロス。
宮を出たところで、立ち止まり、十二宮の遥か上を見上げる。
俺は覚悟の深呼吸を一つ大きく繰り返すと、またいつものようにズカズカと歩き始めた。





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