優しい風が、柔らかな髪をサラサラと揺らす。
金茶色の美しい彼女の髪を。


「今……。今、何て……?」


この一瞬。
全ての時間が停止してしまったかのように、俺を凝視するアイリーン。
どれだけ、そうして見つめ合っていただろう。
漸く、その愛らしい唇が開いて零れた言葉は、まるで吐息のように掠れていた。


「オマエな……。こんな事、何回も言えるかよ。」


細めた瞳で見下ろす視界には、指の間からサラサラ零れ落ちていく、絹糸のような金茶色の髪が揺れている。
魔法に掛かったようなとは良く聞く表現だが、この時の俺は、まさにそうであったと言って良い。
見上げる緑の瞳が、風に揺れる髪が、柔らかくふくよかな頬が。
今、この視界の全てを占拠したコイツが、愛しくて愛しくてたまらない。


俺は掻き上げていたアイリーンの髪から、そっと指を抜いて離すと、再び両腕で強く彼女を抱き締めた。
それこそ、折れる程に強く、この腕にグッと力を籠めて
この身体全部で、胸の中から溢れ出して止まらぬ想いを伝えるために。


「オマエが好きなんだよ。アイリーン、オマエが……。だから、オマエの事が放っておけねぇ。」
「っ?!」


その小さな頭を掻き抱くように、しっかりと自分の胸に押し付けて。
ジワリと伝わる体温を腕の中に感じながら、俺はもう一度、アイリーンへと告げた。
叶うならば、このままずっと、この腕に抱き締めていたいと願いながら、その耳元に囁いた。


「デス……、マスク、様……。」


先程まで、俺の身体を押し退けようと、必死で胸を押し返していた手。
その手が、躊躇いがちに、オズオズと俺の背中へと回る。
そして、キュッと小さくシャツの背を握って、俺の身体を抱き返してきた。
最初は遠慮気味に、それから、徐々に力を籠めて、強く。


俺はその感触に、酷く驚いた。
まさか、これは夢か?
アイリーンの頭を自分の胸へと押し付けていた手を離し、僅かに離れたその隙間から、彼女の顔を覗き込む。
照れと喜びの織り交ざった赤に染まった顔を、俺の胸の中に埋めて、うっとりと目を閉じるその表情は、幸せを噛み締めているようにも見えた。


「……アイリーン?」
「デス、マスク様……。」


声を掛けると、ゆっくりと開いた瞼の向こうから、アイリーンは輝く緑の瞳で俺を見上げてくる。
そのキラキラと潤んだ瞳と目が合った刹那、俺の胸が激しく高鳴り出していた。
風の音だけが響くこの一瞬、聞こえてくるのは煩わしい俺の心音ばかりだ。
自分の意思を飛び越えて、バクバクと胸を打つ、どうにもならない胸の鼓動。


「オマエ……。」
「嬉、しい……。私も……。私も、デスマスク様が好きです。貴方が……、貴方が好きです。」


――サアァァァ……。


そしてまた、強く強く抱き合う俺達を。
吹き付ける暖かなそよ風が、優しく包み込んだ。





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