ふわりと長い銀色の



「髪、伸ばしているんですか?」
「……はい?」


不思議そうな顔をしてミーノス様が振り返ったので、私は慌ててベッドの上に身を起こした。
ミーノス様の視線が、声に出さずともハッキリと語っている。
何故、そのような事を聞くのか、と。


それまでベッドの上にうつ伏せていた私は、衣服を脱ぐミーノス様の後ろ姿を、寝そべったままボンヤリと眺めていた。
背中から腰へと続く筋肉の隆起が、とても綺麗だと思った。
そして、その大きな背中の上で揺れる、長い銀の髪も。


「ミーノス様の髪、長くて艶やかで綺麗なんですけど、冥闘士としては邪魔なんじゃないかなぁって。」
「アルクスには邪魔そうに見えているのですか?」
「見えるというか、戦闘時には短い方が楽でしょうし、やり易いと思います。それにミーノス様は技がアレですから、御自分の糸に、御自分の髪が絡みそうな気がして……。」


ズボンを脱ぎ捨て、下着一枚だけの姿になったミーノス様が、呆れた顔をして私を見下ろした。
ボスンと大きな息をマットレスに吐き出させて私の横に座ると、自身も同じだけ大きな溜息を吐く。
わ、私、何か間違った事を言ったかしら?
アワアワとする私の頭に、ポスリと彼の手が置かれた。
大きくてジワリと温かなミーノス様の手。


「自分の髪が戦闘の邪魔になるようであれば、私は冥闘士にはなれていないでしょうね。雑兵になれるかすら怪しいです。」
「そ、そうですよね、すみません……。」


つい思った事を口に出してしまった私は、随分と軽率だった。
その質問は、貴方の実力を信用していないと言っているのと同じ。
ただの女官如きが、三巨頭であるミーノス様のプライドを傷を付けるような事を言ってしまうなんて。
これは彼の技で縛られて、徹底的にお仕置きされてもおかしくないレベルの失態だ。
だが、ミーノス様は呆れた表情のまま、もう一度、大きな溜息を吐いた。


「戦闘員でもない女性を縛って、どうこうする気は私にはありません。それにアレは、あくまで『緊縛技』、私の戦闘技術・戦闘能力なだけで、私の趣味ではありません。アルクスを縛ったところで、楽しいとも思わないですよ。」
「そ、そうなのですか?」
「そうなんです。それとも、アルクスは私に縛って欲しかったのですか?」


私は慌てて首を左右に振った。
ミーノス様の気が変わって、「やっぱり緊縛プレイがしてみたくなりました。」なんて、言い出されたら大変だもの。
私にも、そっちの趣味はない。


「貴女は本当に素直で純真な人ですね、アルクス。思った事を深く考えずに口に出し、その感情を顔にハッキリと表す。それでいて、裏もなく、嫌味もない。」
「そ、それって、全く褒めていないですよね?」
「どうでしょうね。でも、地上ならば、まぁ分かりますが、このドロドロのタールみたいな冥界で、その純粋さを保っていられるのは奇跡ですよ。」


もし私が早々に貴女を見初めていなければ、どうなっていた事か。
そうポツリと呟いたミーノス様は、これまで吐いた二度の溜息よりも、更に大きく長い溜息を吐き出し、それから、私の髪をグシャグシャに掻き回して、滅茶苦茶に撫で始めた。


「わ、わわわっ?! や、止めてください、ミーノス様!」
「何です? 縛られる方が良かったのですか、アルクスは?」
「そ、そうじゃなくて!」


えぇい!
だったら、私もミーノス様の髪をグシャグシャにしてやる!
そう意気込んで腕を伸ばしたけれども、彼は巧みに私の手を避けて、掠りもしない。
ズルいわ、手足が長過ぎです、ミーノス様!


「純粋無垢なままのアルクスと出逢えたのは、本当に、本っ当に奇跡だった。」
「わっ?!」


突然、手を止めたミーノス様に、ガッチリと抱き締められた。
逞しい胸の筋肉に圧迫され、上手く息が出来ない。
く、苦しい……。
でも、何故だろう?
ほっこりとして安心する。


「それは私の方です。お願いですから、アルクスはこのまま変わらないでいてください。」
「は、はぁ……。」


変わらないでいるとは、どういう事なのか。
正直、良く分からなかったけれど、取り敢えず、私はミーノス様の胸に埋もれたまま大きく頷いた。
頬に触れる肌が、身体を包み込む腕が、とても温かくて。
彼の傍に、私もずっと居たかったから。



触れる温もりは優しい



‐end‐





遅れましたが、3月25日は当サイトの誕生日。
そして、我等が緊縛王子(笑)ことミーノス様の誕生日。
という事で、毎年恒例ミーノス様ドリ夢です。
今年のミーノス様は珍しく『普通』な人になってます、たまにはそういうのも良いかと思いまして。

2019.04.02



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