恋する第一歩



「アルクス。私の事を好きになってもらえませんか?」


そう告げられたのは突然だった。
仕事中の、まだ午後の早い時間。
世間ではお昼の間食の時間と言われる十五時すら、まだ迎えていないくらいの時間。
とはいえ、この一日中真っ暗で、太陽光の届かない冥界では、あまり時間の感覚はハッキリとはしないのだけれども。


「ミーノス様。そうは仰られても、なかなか難しい話です、それは。」
「駄目なのですか?」


駄目とか、そういう話ではなく、人を好きになる、恋愛をするっていうのは、「お願いします。」と頼まれたからといって、「はい、分かりました。」と了承して、どうにかなるものではない。
自分の意志で、自分の気持ちを、好きなように持っていけるのなら、誰も苦労なんかしないのだ。


「どうもいけませんね。正直に言えば、私は恋愛下手なのです。こういう時、どうすれば良いのか分からず、直球勝負に出てしまいました。」
「直球というより、寧ろ、デッドボールだと思いますけれど……。」


思わず溜息を漏らすと、垂れた前髪の向こう側でミーノス様が眉を下げた。
少し悲しそうな、何処となく切ない表情に、私の胸が微かにチクリと痛む。


「では、こうしましょう。私と食事に行きませんか、アルクス? 今夜が無理なら明日。明日が無理なら明後日にでも。」
「では、今夜は突然過ぎるので、明日の夜なら……。」
「分かりました。明日の夜は地上でディナー、楽しみです。美味しいフレンチを知っているのですよ。是非、アルクスを連れて行きたいと思っていたのです。」


だったら、最初からお食事に誘ってくだされば良かったものを。
それを直球どころか、いきなりの変化球で死球攻撃を仕掛けてくるなんて。
まぁ、そんなところがミーノス様らしいと言えば、そうなのだけれども。


「アルクスは肉と魚、どちらが好きですか?」
「そうですね……、お魚でしょうか。」
「それは奇遇ですね。私も魚が好きです。では、メインは魚で頼んでおきましょう。」


意外だわ。
ミーノス様はお肉の方が好きかと思っていたけれど。
北欧出身の方だから、お魚が好きなのかしら。
いや、出身地は関係ないわね。


「ふふふ、アルクス。貴女、私に興味が湧いてきたようですね。」
「……え?」
「だって、今、私がアルクスの好きなものを知りたいと思ったのと同じように、貴女も私の好きなものを知りたくなったでしょう?」


言われてみれば、そうだ。
先程まで、まるで興味のなかったミーノス様の好みが、今は気になっている。
それと同時に、彼という人が、どういう嗜好を持つのか、どういう人なのか、興味深く思えてきたのも、また事実。
指摘されてハッとする。
もしや私、恋愛下手とか言っている彼に、上手く誘導されている?


「なる程。恋愛とは、こういう方法もあるのですか。勉強になりますよ。」
「まさか、これで計算ではないと言うのですか? 本当に?」
「私は嘘など吐きません。きっと天性なんでしょうね。」


それ、自分で言ってしまいますか……。
呆れて眺めていると、自分でもツボにハマったのか、クスクスと笑っているミーノス様。
これまで彼は掴みどころがない、考えの読み難い人だと思っていたのだけれど、意外と単純なのかもしれない。
そう考えてしまう事自体が、彼に興味が湧いてきている証拠なのだろう。



気になるキッカケは、ホンの些細な事



(ディナーの後は、勿論、そのまま泊まりますよね、アルクス?)
(と、泊まりませんよ! いきなり、そんな事、ある訳ないじゃないですか!)
(そうですか、泊まりませんか……。)
(まずは、お食事から。それ以上は無理です!)
(そんなに力一杯、否定しなくても良いじゃないですか。)



‐end‐





ミー様からのお誘いなどを一つ。
鬼畜っぽく見えて、多少、天然くらいが丁度良いミー様なのかなと、勝手に妄想w
サイト誕生日と彼の誕生日が同日なので、ちょっと依怙贔屓が入りますよw

2017.03.26



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