とびっきりのキス



楽しいパーティーを終えて、浮かれ気分のまま暗い道を歩いていた。
やや小走りな足は縺れ、真っ直ぐに進んでいるつもりでも、何故かフラフラと蛇行する進路。
アイアコス様に勧められるまま、何杯も飲んでしまった強いアルコールのせいか、喉の奥から次々と笑いが込み上げてくる。
クスクスと笑いながら振り返ると、口元に穏やかな微笑みを浮かべたミーノス様が、優しく手を差し伸べてくれた。


「ほら、アルクス。そんなに浮かれていては、足が縺れて転んでしまいますよ。ココは決して道が良いとは言えませんから。」
「なら、ミーノス様のお力で、この道を綺麗に舗装してください。」
「そのように無茶な事を言われても、私にだって出来ない事もあります。」
「ミーノス様でも出来ない事があるのですか?」
「私とて、万能ではありませんからねぇ。それより、貴女は飲み過ぎです、アルクス。見事に千鳥足じゃないですか。」


呆れた溜息を吐きつつ、彼は私を問答無用で横抱きにした。
暴れる私は、それすらも何だか楽しくて、笑い声を上げながら、彼の胸にもたれて空を見上げた。
視界の片隅に、ミーノス様の綺麗な髪が揺れている。
その向こうに広がる、冥界の陰鬱な空。
星もなく、月もなく、濃い紫色が染み込んだ黒い空が、四六時中、昼も夜も関係なく蠢いている。


「……地上に帰りたいですか、アルクス?」
「どうしてです?」
「今、空を見上げた貴女の目が、少しだけ憂いを含んでいましたから。」


鋭い人。
私の事を見過ぎる程に良く見ていて、知り過ぎる程に良く知っている。
だからきっと、私が「いいえ。」と答えると分かっていて、そう聞いたのだろう。
私がミーノス様の傍を離れたがらないと良く知っている、そんな自信家の彼。
私は答えの代わりに、スラリとしていながらも逞しい首に腕を回し、頬を擦り付けた。
触れた肌の摩擦は、アルコールに火照った肌に熱く、心地良い。


「今日のアルクスは甘えたさんですね。これもお酒のせいですか?」
「ふふっ。じゃあ、甘えついでに、もう一つ。地上に帰る気はないけれど、お買物には行きたいの。連れてってくれますか、ミーノス様?」
「買物? 何か不足でも?」


優しくて気の利くミーノス様は、生活には欠かせない必需品から、ちょっとした贅沢品まで、何でも私に与えてくれる。
こんなには必要ないわと、こちらが困惑してしまう程に、それはそれは何から何まで。
だからこそ、買物に行きたいと言い出した私に、今度は彼が困惑してしまったのだろう。
彼の傍で暮らしていれば、不足するものなどない筈だから。


「今日は記念日でしょう? それにミーノス様の誕生日でもありますし。なのに、私はプレゼントの一つも用意出来なかったから……。」
「それで地上に?」
「ミーノス様が望むものを、自分の目で見て、自分で買って、貴方に贈りたかったのです。」


少しずつ小さくなっていく声に対して、ミーノス様は長い前髪の隙間から、私の顔を覗き込むように見つめてくる。
普段は隠されているから気付き難いけれど、彼の瞳は綺麗で、そして、いつも優しい。


「必要ないですよ。アルクスが傍に居てくれれば、それで十分なのですから。」
「そう言うと思ったから、言い出し難かったのです。」
「そうですか、では……。」


その形の良い唇がニッと弧を描き、そのままの状態で頬に一つ、それから、唇の端に一つ、軽いキスが落ちてきた。
ただただ空気が掠めただけのような、僅かに擽ったいような、一瞬の感触。
私はパチパチと大きく瞬きをして、直ぐ傍にあるミーノス様の顔を凝視した。


「取り敢えずのプレゼントは、これで。私の欲しいものは決まっていますから、貴女がアレコレと心を煩わせる必要はありません。」
「……教えてください、それは何ですか?」
「答える前に、まずはキスを……、アルクス。」


まさに、その時。
タイミング良く彼の部屋の前に辿り着いた。
絡み合う視線、目と目を合わせて離さないまま、そして、私を腕に抱え上げたまま、器用に扉を開けたミーノス様は、それが閉まるのと、ほぼ同時。
いや、一秒も違わずピッタリ同じ瞬間に、今度は深く熱い口付けで、私の言葉も意識も、それからの長い時間も、全部を奪った。



欲しいものは変わらぬ愛と甘い夜



(どうです、アルクス? たまには縛りプレイなど……。)
(それだけは絶対に嫌です! 絶対にしません! 絶対です!)
(そうですか、残念です。)



‐end‐





ミーノスさま、お誕生日おめでとう御座いました!
このヘッポコサイトと同じ誕生日、親近感が湧きますね、我等が緊縛王子にはwww

そして、ついにサイトも7周年。
相変わらずの怪しさ満点、HENTAI度マックスなサイトですが、変わらぬ御愛顧を宜しくお願いします^^

2014.03.25



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