02.3センチ



「やっと、終わった……。」


そう一言、呟くと、私はデスクの上にバタリと上半身を預けて突っ伏した。
あぁ、完徹だわ。
一体、何年振りだろう、徹夜で丸一日を過ごしたなんて。


というのも、昨日の夕方。
事の起こりは、帰宅直前に発覚した重大なミスのため。
お陰で定時に帰宅する事はおろか、一睡も出来ずに朝を迎えてしまったという訳で。
たまたまその場に居合わせてしまった事が運の尽きと言うか、女官達どころか執務当番の黄金聖闘士様達ですら帰宅した後だったせいで、居残っていたサガ様とアイオロス様、そして、私のたった三人で、その重要書類の修正を行わなければならない羽目になってしまった。


「マズイな……。この数字がおかしい。一体、何処から間違っているんだ? しかし、確認するにも時間が……。」
「明日では駄目なのか、サガ?」
「それでは間に合わん。ただでさえ提出期限をギリギリまで延ばしてもらっていたのだ。どんなに遅くとも明日の朝イチには、伝令役に書類を渡さねば、期限内に相手方へ届かない。」
「そうか……。ならば仕方ないな。俺達二人で何とかしよう。二人掛かりなら明日の朝には終わるだろう。」


最初、お二人は私を巻き込むつもりなど少しもなかった様子だった。
それが証拠に、私には声を掛けずに仕事を再開し始めた。
だからと言って、見て見ぬ振りなんて出来る訳もなく、私は抱えていたバッグを下ろすと、二人の間に割って入った。


「あの……、私も手伝います。」
「しかし、鮎香……。」
「キミを遅くまで働かせる訳にはいかないよ。」


予想通りに渋るサガ様とアイオロス様。
だが、そんな二人の様子は気にせず、広げられた書類の山に手を伸ばした私。
これは、かなり以前からサガ様が掛かりきりで処理していたものだと一目で分かった。
時折、資料作成などを手伝っていたから、内容ならば良く知っている。


「何処が違っていたのですか? この数字ですか? ならば、間違いの根本を探して確認する作業も、計算も検算も、お二人よりも私の方が早い筈です。確実に朝までに終わらせるには、その方が良いと思いますけど、どうでしょうか?」
「だが……。」
「いや、やはり手伝いをお願いしよう。俺達二人では心許ない。鮎香がいれば助かる、それは確かだ。それに、鮎香はこうなったら引かないだろう?」


渋り続けるサガ様をやんわりと制し、笑顔を浮かべたアイオロス様が私に頷いてみせる。
この仕事が無事に終わったら、二日間のお休みをキッチリと取る事を条件に、私は夜を徹した二人の作業に加わる事を許された。





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