取り敢えず、このままでは埒が明かない。
呆然としているミロ様とカミュ様を上手く言い包めて、暫く待っていてもらう事にすると、私はシュラの背を追い立てて、急ぎ浴室に向かった。


「バレちゃった……、わね。」
「仕方なかろう。隠し事は、いつか必ずバレるものだ。」
「そうだけど……。」


まだ聖域に残れるかも決まっていないのに、噂ばかりが広まってしまうのは嫌だった。
これで結局、日本に戻らなければならなくなった場合、どれだけ虚しい思いをする事になるか……。


「例え日本への帰還命令が出たとしても、俺はお前を離さん。我が儘だと謗られようと、命令違反だと怒鳴られようと、俺は鮎香を手離す気は毛頭ない。」
「シュラ……。」


シャワーの雨に打たれながら、シュラの熱い唇が降ってくる。
額に、こめかみに、頬に。
それから、お湯に濡れた唇に。


「……っ?! だ、駄目っ!」
「何故だ?」


スルリ、身体を滑る手と、エスカレートしていくキスの嵐。
そして、腰に押し付けられたのは、彼の熱を帯びた欲求の証。
何一つ身に着けていない浴室の中で、行為に及ぶ事は容易い。
だけど、今は人を待たせている。
怒りと、虚しさと、悲しみと、苛立ち、そして、困惑と、整理の付かない感情を持て余しながら、今か今かと私達の戻りを待つ人が、直ぐ傍の部屋に待機しているのだ。
この状況で事に及ぶなど、私には考えられない。


「今は先にやらなきゃならない事がある、でしょ?」
「……ならば、今夜は止まれんぞ、鮎香。覚悟しておけ。」


昨夜、あんなに激しかったクセに、まだそんな事を言うの?
この人の情熱は、何処までも尽きない。
改めて、そのタフさを思い知らされる。
私が吐いたのは呆れの溜息、いや、もしかしたら、彼の情熱に当てられて零れた吐息かもしれない。
シュラに抱き竦められたままだった身体を突き放すように離すと、慌ててシャワーで汗を流し、浴室を後にした。


「折角だ、朝メシを食っていけ。」
「あぁ? 朝メシだぁ? そんなもので誤魔化すつもりか?」
「落ち着け、ミロ。鮎香が困っている。ここは有り難くいただこう。」
「チッ、仕方ない。だが、朝メシ程度で、俺を丸め込めると思うなよ。」


シュラはいつものように片眉を上げただけで、特に言葉を返す事なく、キッチンへと姿を消した。
私は二人をダイニングへと案内し、急いでシュラの後を追う。
朝食だから、それほど手の込んだものは作らないけれど、それでも、人を待たせている。
しかも、その内の一人は、恐ろしく気が立っているときている。
急がないといけないわね。


シュラと手分けをして手早く四人分の朝食を用意し、そして、殆ど間を開けずに、ダイニングテーブルの上を、湯気の上がった出来立てのお料理が彩った。
レタスとトマトと茹でブロッコリーのサラダ、スモークサーモンとスライスオニオンのロールパンサンド、小魚のフリット、ベーコンとチーズのトルティージャ、そして、オリエンタルポテトを使ったマリネ。


「うわ、美味そう……。」
「鮎香が作ったのか?」
「私が作ったのは、サラダとトルティージャだけ。サンドイッチとフリットはシュラが作ったんです。」
「このポテトのマリネ、何だよ、コレ。超美味いじゃん。」
「それは昨日、デスマスク様が作ったオリエンタルポテトの残りを、お酢で和えただけの手抜き料理でして……。」


そうして暫くの間は、言葉少なに、黙々と食事が進んだ。
合間合間の言葉は取り留めのない事ばかりで、このまま何事もなく済めば良いのにと、そんな淡い期待さえ広がる。
だけど、食事も終わりに近付いた頃、静かにフォークを置いたシュラの気配からは、それを良しとしない意志がヒシヒシと感じられた。





- 2/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -