「鮎香、お前も俺を欲しているんじゃないのか? でなければ、この熱は……。」
「っ?!」


胸を押し返す彼女の腕を払い、もう一度、ギュッと腕の中に閉じ込めた。
柔らかく反発する女性特有の抱き心地に、体内の欲が更に膨れ上がっていく。
いっそ、無理にでも自宮へと攫ってしまいたくなるのをグッと堪え、俺は鮎香の髪を撫でながら、辛抱強く答えを待った。


「わ、私は……。私は一夜の夢など見たくないんです。シュラ様にとっては熱に浮かされた一夜の情事に過ぎなくても、私にとっては一生消えない夢になる。嫌なんです、そんなの嫌なんです。たった一夜の夢に、一生、苦しむくらいなら、夢なんか最初から見ない方が良いの……。」


それはつまり、俺がこの雰囲気と勢いに任せて鮎香を誘った、そう思われているという事。
一夜限りの相手として、彼女とそういう行為をしたいのだと。
まさか、そんな風に受け取られてしまうなど、思ってもいなかったが……。


「鮎香、こっちを見てくれ。」
「シュラ、様?」
「俺の目を見て、答えて欲しい。鮎香、俺が一夜の快楽のために女をベッドに誘う、そういう男に見えるのか? 良い雰囲気になったなら、相手が誰でも構わない、誰でも抱く男だと思うのか?」
「それ、は……。」


鮎香の身長に合わせて少しだけ屈めば、大きく目を見開いた彼女の顔が視界いっぱいに映る。
その目に揺れるのは、揺れ動く様々な感情。
中でも一番大きいのは、やはり戸惑いだろうか。


「俺は好きでもない女を抱きたいとは思わん。一夜の楽しみのためだけに、女をベッドに誘おうとも思わん。そんな無駄な体力を使うくらいなら、お前の事を思いながら一人で耽った方が千倍はマシだ。」
「あ……、あの……。」
「好きだ、鮎香。好きだからこそ、抱きたい。気が狂うくらいに愛し合いたい。鮎香……、俺はどうしようもなくお前が欲しい。」
「シュラ、さ……、んっ!」


彼女が俺の名前を呼び終わらぬ内に、もう一度、その小さな唇を奪った。
奪って、貪って、隅々まで味わった。
もう他の誰にも触れさせたくはない。
俺以外の誰にも、この唇に触れる事を許したくはない。
ガッチリと後頭部を抱え込み、鮎香が苦しいだろうと分かっていながら、全力の口付けは止められなかった。


「は、はぁっ、は、はっ……。」
「ふっ、く、鮎香……。行くぞ。」
「で、でも、シュラ様……。」
「行くぞ。もう、これ以上は待てん。一分一秒でも早く鮎香が欲しい。後悔などさせん。」


問答無用に、その華奢な身体を抱え上げた。
再び驚きで見開かれる瞳。
その目が、俺だけを真っ直ぐに見つめている。
だが、もう彼女に抵抗する気はないように思えた。


「一夜の夢などで終わらせる気はない。毎夜、果てぬ夢を、何度も鮎香と繰り返したい。俺はお前が好きだ、鮎香。ずっと前から、お前と初めて会った日から、お前だけを想っていた。」
「シュラ様……。私、私もずっと貴方が……。」
「行こう、俺の部屋へ。」


コクリ、頷いた彼女を強く抱き締め、横抱きのまま、テラスの柵に足を掛けた。
教皇宮の中を抜けていけば、誰の目に留まるかも分からない。
その上、ミロ達に見咎められる可能性も無きにしも有らずだ。
ココから真下の道へと飛び降り、十二宮の階段の途中に降りた方が、安全かつ早く自宮へと着くだろう。


「鮎香、俺の首に腕を回して、しっかりと掴まってろ。」


言うが早いか、俺は夜の闇に向かって空を飛んだ。
腕に抱いた彼女は妖しいまでに匂い立ち、俺の心を目眩すら覚える程に掻き乱す。
あと少し……。
あと少しで、夢にまで見た彼女を、想い続けた女を、俺のものに出来る。
この身体で、鮎香の全てを奪えるのだ。
そう思うだけで高まる身体と、早鐘を打つ心臓を抱え、俺は急いた心のままに階段を駆け下りた。



今直ぐに全てを奪いたい
(もう堪えられない)



‐end‐





山羊さま、限界を迎えて暴走を始めましたの巻www
普段はクールで硬派でも、ラテンの血を持つ男に火が点くとこうなりますな典型ですね。
この展開からご察しの通り、次回はガッツリ濃厚山羊EROが待っております、多分w

2013.06.16



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