「フッ、奴等にとっては災難だったが、鮎香にとってはラッキーだったな。」


コクリと一口、手にしていたグラスのワインを飲み下すと、フッと零す小さな笑み。
その横顔に見惚れて、目が離せなくなる私。
本当に反則だ。
この至近距離、今にも肩と肩とが触れそうな位置での、意識しないこの微笑は。
私じゃなくても、きっと目が眩んでしまう。


「いや、ラッキーなのは俺、か?」
「え、どうして?」


ラッキーなのは明らかに私。
ムウ様のお陰で、ミロ様達の攻撃から逃れられたし。
アフロディーテ様のお陰で、シュラ様の隣で話すチャンスを得たのだから。
それが、シュラ様の方がラッキーだなんて、意味が分からない。


「どう考えても、俺が一番ラッキーだろう。こうして自分は何もせず、鮎香と二人、話せる機会が転がってきたのだからな。」
「っ?!」


更に深まるシュラ様の笑み。
そして、チラリとコチラを横目で見遣る視線。
駄目、目眩がするなんて程度じゃ済まない。


「どうした、鮎香?」
「その……、今夜のシュラ様は少し……、色っぽいというか、セクシー過ぎです。」
「俺が? セクシー?」
「酔ってらっしゃるのでしょう? だから、そんなに……。」
「いや、今日は一滴も飲んでないが。」


嘘、素面でそんなに色気が滲み出してるだなんて。
それに手にしてるのは、どう見ても赤ワインだ。
照明を受けたグラスの色が、赤い帯となって揺れているもの。


「鮎香こそ、酔ってるんじゃないのか? だから、そんな風に見えてしまうのだろう。」
「違います、これは葡萄ジュースですもの。」
「なら、俺と同じだな。これも葡萄ジュースだ。今夜はどうも飲む気がしなかった。」


シュラ様がジュース?
驚いて見上げた横顔には、相変わらず薄い笑みが浮かぶ。
そのままこちらを見遣る視線は、やはり酔っているのではと疑ってしまう程に深い妖艶さがあった。


「たまにはこういうのも悪くない。何でもワイン風に作ってるジュースらしいから、甘さも控えめ、苦みと渋みも多少はあって、ジュースというよりはノンアルコールのワインといった方が当たってる気がする。」
「そう、ですね。」


今夜のシュラ様は饒舌だ。
やはり酔ってるのではと思える程に、スラスラと話が繋がれていく。
普段なら、もっと無口で沈黙が多くて、でも、その沈黙も彼ならば苦痛でも気まずくもなく、寧ろ、その静かな雰囲気に心惹かれるくらいなのに。
どうしてだろう?
不思議と紡がれる言葉が仄甘く、見つめる視線が微かに熱っぽく思えてしまうのは。
これといって甘い台詞を囁かれている訳でもないというのに。


「鮎香、それは本当にジュースなのか? 顔がヤケに赤い。」
「そ、それは……。」


アルコールのせいでも何でもない。
原因はシュラ様。
私の目の前にいる貴方が、余りにセクシーで、余りに私の胸をドキドキと高鳴らせるから。
言われて、両手で頬を包み込む。
熱に火照った顔は、ジワリと熱く、包んだ手をも発火させてしまいそう。


「少し涼みに行くか? テラスに出れば風が吹いてて、心地良いだろう。」
「は、はい……。」


誘われるまま部屋を出て、薄暗い廊下へと。
廊下の突き当たり、ガラス戸の向こう側に拓けたテラスには、人の気配はなかった。
先にテラスへと向かったシュラ様に断りを入れて、私は一旦、化粧室へ。
鏡に映る顔は、本当だ、トマトのように真っ赤に火照っている。
水に濡らした手で頬に触れてみても、その熱は一向に下がる気配はなかった。
今夜は多分、シュラ様の傍にいる限り、この熱は下がらないのだろう。
彼の作り出す仄甘い雰囲気に飲まれて、胸の奥が高鳴りっ放しなのだから。



心乱す微糖のジュース
(微かな甘さに心が溶ける)



‐end‐





ちょっとだけ甘い雰囲気を演出してみましたな山羊様に、見事にクラクラしてしまう夢主さんの巻w
ここから一気に二人の恋愛が加速する……、予定です、多分。

2013.06.11



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