11.微糖



ここ聖域では、年に二回、大きなパーティーが開かれる。
名目上はパーティーと言っているけれど、謂わば無礼講の飲み会。
日頃、労力を惜しまず働いているスタッフの、ストレス発散のための場として設けられているもの。
一回は年越しに行われるニューイヤーパーティー。
そして、もう一回が今日、アテナ様の生誕の日である。
昼間に行われる式典に続き、夜は教皇宮の大広間を開放してのパーティー。
聖闘士も雑兵も、神官も文官も皆、隔てなく好きに飲み、好きにお喋りし、陽気に歌い騒ぐ会。


正直、私はこの日が好きではない。
勿論、アテナ様の聖誕祭という神聖かつ喜ばしい日ではあるのだけれども。
問題は、夜のパーティーの席。
こっそりと抜け出して家に帰りたい、出来る事なら欠席したいとも思うくらい。


理由は明確、ミロ様とアイオリア様だ。
パーティーとなれば、必ずこのお二人に呼び止められ、左右から「鮎香は俺とコイツ、どっちが良い?」と、ミロ様かアイオリア様かという二択の返答を強要されるのだもの。
しかも、酔っているために容赦がなく、曖昧に逃げようとしても許してはくれない。
お二人にとっては、答えは二択。
でも、私にとっては、別の選択肢もあるというのに、そんな事は眼中になく、聞く耳すら持たないのだから大変なのだ。


見方によっては、黄金聖闘士お二人にサンドイッチされて、左右から口説かれるなんて贅沢極まりないとも思えるだろう。
だけど、他に想う方がいる私には、お二人の強引な口説き文句も行動も、はっきり言えば、あまり嬉しくはない。
叶うなら、シュラ様のお隣に座って、ゆっくりとお話出来たらなんて思っている。
でも、そんな願いも虚しく、いつもいつも真っ先にミロ様に呼び止められてしまうのだ。


「鮎香、鮎香〜! こっち、こっち。ココに座って、ほら!」
「あ、はい……。」


ほら、やっぱり今日もそう。
こっそりと見つからないようにしていたのに、流石に黄金聖闘士様は目が良いというか。
あっさりと見つかって、手招きまでされれば、女官の私には断りようがない。
しかも、ミロ様が私を呼ぶ声に気付いて、アイオリア様もコチラへと向かってノシノシと近寄ってくる。
これは、また酔ったお二人に挟まれて、「どっちが好き?」とか「どっちが格好良いと思う?」とか、延々と質問され続けるのだろう。


でも、今夜の私は運が良かった。
と言っては、ミロ様とアイオリア様には申し訳ないのだけれど。
それでも、そう言っても良いと思うの。
今夜は……、今夜だけは。


「ミロ、アイオリア! 貴方達は、またそうやって鮎香を独り占め、いえ、二人占めして! 鮎香だって、いつもいつもクドい貴方達の相手をするのは大変でしょう、たまには解放して上げなさい。」
「ムウッ?!」


たまたま近くに居合わせたムウ様が、助け船を出してくれたのだ。
これにはお二人は勿論、私だって驚いた。


「べ、別に、鮎香を独り占めしてるつもりはない!」
「そうだぞ! アイオリアは兎も角、俺はクドくなんかない!」
「もう少し、その足りない頭を巡らせて考えてみなさい。貴方達がいつも鮎香を傍に置くことで、彼女が他の女官達の恨みを買うと気付かないのですか? 女官のみならず、神官や後輩の聖闘士、この機会に貴方達と話をしたいと思っている者は少なくない。その者達の恨み・妬みを鮎香の華奢な身体に一身に背負わせているのですよ。それをちゃんと理解してやっているのですか?」
「そ、それは……。」


流石はムウ様。
お二人に反論の隙を与えない、畳み込むような見事な叱責の言葉。
ミロ様もアイオリア様も、気持ち小さくなってムウ様に叱られる一方だ。
唖然と、その様子を見ていた私だったが、言葉を止めぬまま向けられたムウ様の目配せに、ハッとする。
今のうちに早くお行きなさい、そう言ってくれている視線。
私はお二人に気付かれぬよう小さくお辞儀をすると、ムウ様の背に隠れるようにコッソリと、その場を後にした。
ムウ様には、明日にでも、このお礼をしに伺わなきゃね。





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