10.ひざまくら



さやさやと吹き抜ける風が心地良かった。
頬を、肌を擽る生暖かさは、修練後のダルい身体に緩やかな眠気を呼び起こす。
このまま自宮に帰るのも勿体ない気がして、近くの草原に足を運ぶと、そのままゴロリと寝転んだ。


時刻は午後四時。
まだまだ日が陰るには早い時間。
頭上から燦々と顔を照らす日光は、まだまだ暖かく、もう暫く、こうしてゴロゴロとしていても、身体に影響はないだろう。
最近は少し忙し過ぎた、今日くらいはノンビリしたって罰は当たるまい。
少しだけのつもりで目を閉じると、暖かな日光と風に包まれて、俺は直ぐに夢の世界へと意識を飛ばした。



***



「……様。……ラ様?」
「ん……、何、だ?」
「……シュラ様。こんなところで寝ていたら、風邪を引きますよ。」


降り注ぐ暖かな日光よりも、吹き付ける優しい風よりも。
ずっと柔らかで心地良い声に誘われて、ゆっくりと閉じていた瞼を開く。
真っ先に飛び込んでくる日光の直撃の手前、俺を顔を覗き込む誰かの姿が、暗いシルエットの影となって見えている。
慣れない目には、その顔の判別が付かない。
だが、この声、耳に心地良い声音。
聞き間違う事など有り得なかった。


「鮎香、か? 何をしている、こんなところで?」
「それは私の台詞だと思いますけれど。」


クスッと笑って、彼女は俺の隣、青々とした草原に腰を下ろした。
途端に、鮎香の身体で遮られていた日光が、真っ直ぐに俺の瞳へと突き刺さってくる。
その眩しさには流石に耐え切れず、ゴロリと鮎香の方へ身体を回転し、横向きに寝そべった。


「あまりに天気が良かったんでな。帰るのが惜しくなった。」
「シュラ様にしては、珍しいですね。」
「そうか? まぁ、そんな気分の時もある。」


ザザッと強めの風が吹き抜け、会話が途切れた。
周囲の草木がザワザワと揺れ、草の先端が俺の身体を擽る。
気まずさは全くなく、訪れた沈黙も心地良く感じられた。


つい十分程前までは、ココの近くの古い闘技場で候補生相手に体術の稽古を付けていた。
そのため身体は程良いダルさに包まれている。
暖かい気候と穏やかな風は、そんな俺の身体には最高に心地良く、眠りを誘う薬のようだった。


「鮎香は……、どうしてこのようなとこに?」
「闘技場の調査です。あちこち痛みが激しいとの話が雑兵さん達から上がっていたので、修復師の方々と確認に来たんです。私の役目は、ただ記録を付けるだけでしたけれど。」
「その修復師達は?」
「先に戻りました。私はシュラ様の姿が見えたようだったので……。」


それで一人、ココに残ったという訳か。
それだけ気にして貰えているというのなら、嬉しい事だと言えるのだろう。
だが、俺でなくても鮎香はココに残ったのではないだろうか?
他の黄金聖闘士でも、同じようにしたのでは?
ココに居たのが俺だからこそ、様子を見に来てくれたのかと聞けば、どういう答えを返してくれるのか。


「さぁ、どうでしょうね。」
「つれない返事だな。」


見事に、はぐらかされてしまった。
仕方ないか。
彼女はミロやアイオリアにも言い寄られている身。
下手に誰か一人に気がある素振りなどしようものなら、この先、色々と争いの火種になりかねない。
しかし、誰も見ていない状況で、少しくらいは気を持たせてくれても良いものを。
そう思うのは、やはり俺の我が儘なのだろう。





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