視線を戻すと、そこにはニンマリと弧を描いた彼女の瞳があった。
昨日のシュラ様と私の行動、その全てに対して、女性特有の興味津々さで、こちらに身を乗り出している。
実際、私から根掘り葉掘り聞き出すのが、心底楽しそうな様子。


「お揃いのカップですって? あのシュラ様が? 本当に?」
「え、うん。その……、たまたま私が手に取ったのが水色のカップで、男性が使ってもおかしくないカラーだったし、それに……。」
「それに、何? 勿体振らずに言いなさいよ。」


別に勿体振っている訳じゃなくて、これを言ってしまうとシュラ様のイメージが崩れるんじゃないかと、ちょっと心配になる。
何せ、あんな模様のカップだもの。
でも、ここまできて言わないなんて、絶対に許してくれないわよね。


「そのカップ、可愛い山羊の絵が描いてあるの。だから、シュラ様も気に入ったのかなぁって……。」
「シュラ様が山羊模様のカップ?! やだ、可愛い、シュラ様!」


嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ彼女の瞳が、やけにキラキラ輝いている。
これはやはり余計な情報を与えてしまったかもと、私の胸の中を後悔の念が襲う。
確実にシュラ様のイメージが悪くなって……、はいないだろうけれど、間違った方向へ走り始めているのは確かだ。


「その山羊模様のカップを、鮎香とお揃いで買ったんでしょう? だったっら決まりじゃない!」
「決まりって、何が?」
「あの硬派なシュラ様が、女の子とカップをお揃いで買うなんて、普通じゃ考えられないもの。余程、鮎香の事が好きじゃないと、そんな事、絶対にしないわ。」
「ええっ?! そ、そんな事はないと思うけど……。」
「なら、鮎香。貴女、シュラ様が他の女官の子とお揃いでカップを買っている姿、想像が出来る?」
「それは……。」


全く想像が付かない。
それ以前に、シュラ様が私以外の女官の誰かと、買物に出掛ける事すら有り得ない気がする。
彼は以前、ファッションや男性の事ばかり考えているような女官達は好かないと、確かにそう言っていた。
でも、だからといって、私に好意があるという結論にはならないと思う。


「たまたまシュラ様と私の性格が合うというか、一緒にいて居心地が良いからってだけじゃないの? 友達のようなものであって、好きとかそういうのでは……。」
「その『居心地が良い』っていうのが大事なんじゃないの。まずそこから好意に変わるものよ。大体、あのシュラ様が女友達を必要とすると思う? 間違いないわ。彼は百パーセント、鮎香を女として見てる。意識してるし、好意を持ってるからこそ、デートに誘ったり、カップをお揃いで買ったりするのよ。」


そう、だろうか……。
確かにシュラ様は、いつでも私に親切にしてくれるし、気遣いを見せてくれる。
でも、彼が優しいのは私に対してだけじゃないと、それも知っている。
彼の優しさは他の皆に対して平等。
その中で、私がたまたま性格が合うからという理由で、買物に誘っただけ。
それが真実だと思う。
カップの件は、私が可愛いと言ったものを、偶然にもシュラ様も気に入っただけの話だ。
彼女の言う事を鵜呑みにして、変な期待なんて持たない方が身のためよ。


「大概、頑固ね。鮎香は。」
「だって、どう考えても有り得ないでしょう? シュラ様は黄金聖闘士。私のような女官如きに好意を持つなんて。」
「黄金聖闘士だからこそ、一番身近にいる私達に、興味が向くんじゃないかと私は思うけど?」
「期待し過ぎよ。」


そうかなぁと言って、肩を竦める彼女の仕草に、私は小さく苦笑いを零す。
シュラ様を好きな気持ちには変わりないけれど、叶わない夢は見ない方が良い。
私は聖域での仕事を効率良く進めるために、日本から派遣されてきた、ただの女官でしかないのだから。





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