04.おはよう



「……ふあっ。」


噛み殺し切れずに零れ出た大きな欠伸。
口元を覆い、もう一方の腕を上に向けて伸ばしてみるが、その程度では、まるで目覚ましにもならない。
諦めて席を立つと、人気のない執務室にガタリと大きな音が響いた。


今夜は予定外の夜勤警護だった。
女神が聖域に滞在している時には、昼夜関係なく聖闘士が交代でアテナ神殿の警護に当たるのが常だ。
俺は、つい二日前に夜勤だったから、暫くは当番が回ってこない筈だったのだが。
今日の当番のカミュが何やら急用が出来たらしく、代わって欲しいとの必死の頼みに、俺は断る事が出来なかった。
実を言うと、今朝は早朝警護だったため、早く帰りたいというのが本音ではあったのだが……。


「まだ八時か……。」


このままでは、あまりの眠気に深夜の時間帯まで持たないかもしれない。
今の内に少し仮眠でも取っておいた方が良さそうだ。
そう思って執務室を後にし、普段は余り使われる事のない黄金聖闘士用の仮眠室へと向かった。


しかし、こういう時に限って、誰も使わない筈の仮眠室が塞がっている不思議。
そういえば、小一時間程前に青い顔をしたサガが、ふら付いた足取りで執務室を出て行ったな。
今頃、この部屋の中で、久し振りの睡眠を堪能している頃だろう。
そう思えば諦めも簡単に付き、俺は仕方なく雑兵や文官達が使っている仮眠室へと足を伸ばした。


「あ、シュラ様……。」
「鮎香?」


空いている部屋はないかと、幾つかの仮眠室のドアの前を探るように歩いていた時、偶然にも、その中の一室から姿を現した鮎香。
手には外したばかりのシーツを抱えているところを見ると、この中で仮眠を取っていたのだろう。


「シュラ様、これから仮眠ですか?」
「あぁ、今夜は夜勤警護でな。黄金聖闘士用の仮眠室はサガに先を越されてしまったので、仕方なくコッチへ来たんだが……。」


お陰で、こうして偶然、鮎香の顔が見れた。
これは良い夢を見ながら仮眠が出来そうだと思っていると、何故だか彼女が顔を背け、抱えたシーツの向こう側に顔を隠そうとする。


「何故、顔を隠す?」
「え、あの、それは……。シュラ様に寝起きの顔を見られるのが恥ずかしいというか……。」


そう言って、隠れたシーツの端から恐る恐る上目遣いに俺を見上げてくる鮎香。
ホンの少しだけ彼女に纏わり付く寝起き独特の気だるさに加えて、この表情。
一瞬、理性のタガが外れて、彼女を仮眠室の中へと引き摺り込んでしまいたくなる衝動に駆られた。
が、心の中の自分に鞭を打ち、寸でのところで持ち堪えた。
流石に、この神聖なる教皇宮の中で、そのような事に及んだとバレたなら、大変な事態になりかねない。





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