「し、シュラ様っ?!」
「驚いた。急に起き上がるから。」
「す、すみません……。」


慌てて身体を引っ込めて、距離を取る。
ホンの数秒とはいえ、あんなに近くでシュラ様と顔を突き合わせていただなんて、思い返しただけでも顔が火照ってくる。


「どうした、鮎香? 顔が真っ赤だ。熱でも出たんじゃ……。」
「い、いえ! 違います、何ともないですから!」


これは熱は熱でも風邪じゃなくて、羞恥で熱くなったものです!
だなんて、流石に言えず、ただただ手をパタパタさせて否定する私。
自分でも余裕がない行動に思えて、益々、恥ずかしさが募るが、私の顔を心配気に覗き込んでいたシュラ様は、一応は納得したのだろう。
彼自身も屈めていた身体を起こし、手にしていたカップをデスクの上に置いた。


「温かい紅茶を淹れてきた。それを飲んで、一息ついて、それから帰ったら良い。ココで寝ては身体を痛めるか、風邪を引くかするぞ。」
「有難う御座います、シュラ様。あの……、紅茶も。」
「寝惚けたままで帰宅などしたら、十二宮の階段を転がり落ちかねないからな。それで少し目を覚ました方が良いだろう。」
「お気遣い、とっても嬉しいです。」


やっぱりシュラ様は優しい……。
こうして何気なく心配してくれる事、細かな気遣いをみせてくれる事が、心に沁みて嬉しいの。
温かな紅茶のカップを手に取り、カップ越しに伝わる温もりにうっとりとするくらいに。
このさり気ない優しさが好き。


「いや、紅茶くらいでは危ないか……。やはり、俺が送っていくべきか?」
「……え?」
「途中で何かあっては大変だからな。俺が鮎香の住まいまで連れて行く。嫌か?」
「い、嫌ではないですけど……。」


連れて行くって、どうやって?
カップを手にしたまま、呆然と目の前のシュラ様を見上げた。
いつもの変わらぬ無表情に、ホンの少しだけ口元に浮かんだ笑みが眩しく映る。
一体、何を考えているの?
そう思った刹那、再度、身を屈めた彼が、先程と同じくらい顔を接近させて、そして、耳元に囁いた。


「勿論、横抱きで運んでやるが、どうだ?」


シュラ様に姫抱っこされて十二宮の階段を……?
その映像が頭を過(ヨ)ぎった瞬間、その近過ぎる顔の距離と相重なって、私の身体中の血液が一気に沸騰しそうになった。



心を掻き乱す三センチ
(それは近いようで遠い距離)



‐end‐





山羊さまに無意識フェロモンを撒き散らしていただこうかと思ったら、ただのセクハラ男になりました(死)
結局、この後の夢主さんは、自力で十二宮の階段を下りて、無事に自宅に帰った模様ですw
偶然の事故でキスしちゃうようなラブハプニングは定番ですが、あえてココでは寸止めで(苦笑)

2012.04.09



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