それにしても、あれだけ頻繁に行われていた三人での飲み会。
あれが彼等のストレス発散にある程度、繋がっていたのだとしよう。
いや、仮定ではなく、確実にハメを外して飲み明かす事で、ストレスを発散していた、間違いなく。


だったら、今のシュラ様はストレスの発散場所がない、という事になる。
たまに夕食時やお風呂上がりなどに、お酒を飲む事もあるけれど、それも嗜む程度だ。
酔っ払ってハメを外すというには程遠い。


もしや、その溜まったストレスのせいで、余計に欲求不満が高まっているんじゃないかしら?
だから、女官の私なんぞに迫ってみたくもなるのでは?
あぁ、それは有り得る、大いに有り得る。
じゃないと、私なんかにフェロモン撒き散らす意味が分からないもの。
迫った振りしてからかって、タジタジと焦る私の姿を見て笑い、それをストレス発散にしている。
きっと、そうなのだわ。


「シュラ様……。たまには息抜きでもされてきたらどうです?」
「息抜き? 何の事だ?」
「シュラ様だって、その……、色々と溜まるものもありますでしょう? ですから、あの……、そういった施設で少し発散されてはどうかと……。」
「あぁ、その事か。」


ヨーグルトを食べるためのスプーンが、ガチャリとガラスの器に当たった音が響く。
見れば、手を止めたシュラ様が、片眉を吊り上げて小さな溜息を吐いた。
如何にも面倒臭そうに。


「大昔に、一度だけ行った事がある。デスマスクに連れられて。」
「はぁ……。」
「だが、駄目だった。役に立たなくてな。」
「……は?」


シュラ様はテーブルに片肘を付くと、その手でワシワシと髪を掻き毟り出した。
それは普段の彼が、あまり見せない仕草だ。
俯いて髪に半分程隠れてしまった表情も、酷く憂鬱そうと言うか、苦虫を噛み潰しているような顔をしている。


「つまりだ。そこは、そういった行為をする場所で、勿論、相手がいる。だが、当たり前に相手は『彼女』ではない。顔を見てしまったら、もう駄目だった。すっかり萎えてしまっていた。どうも俺はそこのところを割り切れないらしい。彼女でなければ、全くその気にならん。」


それだけ、シュラ様の彼女に対する想いは強いという事。
でも、それでは溜まった欲求を吐き出す事も、吐き出す場所もなく、そのまま溜まっていく一方だ。
彼女への告白が上手くいかない限り、シュラ様の中に危険な欲望が積もりに積もっていく事になる。


ふと、目の前のシュラ様が、ジッと彼自身の右手を眺めている事に気が付いた。
って、え……。


ま、まさか、それは……、そういう意味じゃ、ない……、ですよ、ね?
いや、良いです、それは言わなくて!
寧ろ、言わないで!
それだけは言わないで!


「別に欲求なら自分で処理すれば問題ない。顔の見える何処ぞの女を相手にするよりは、彼女の姿でも思い浮かべながら耽った方が数倍、いや、数百倍は燃え上がるからな。」


いやあぁぁ!
ツラッとした顔して、そんな事をサラリと言わないでください!
何か一瞬、思いっきり危険な場面を想像しそうになったじゃないですかっ!


これからは、シュラ様がシャワーを浴びている時に、浴室には近寄らないようにしようと心に決めた。
だって、危ないもの、色々と!
中で何が行われているのか、考えただけで卒倒しそう。


また余計に危険な事が増えてしまったわ。
平然とした顔をして目の前に座っているシュラ様が、ちょっと恨めしい。
こんな話題を振らなければ良かったと、迂闊な自分の発言を心から後悔した瞬間だった。



→第12話に続く


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