「シュラ様、これなんてどうですか?」
「いや、こっちので良い。」


昼食後、ラグとカーテンを探してフラリと入ったお店は予想以上に広く、私が良さそうなラグを見つけた時、シュラ様の姿は少し離れたところにあった。
私は自分が見ていたラグの場所から、急いでシュラ様の傍へと駆け寄る。


「これですか? こうして見るとそうでもないですが、広げると思った以上に派手ですよ、きっと。」
「分かっている。だが、コレで良い。これが一番、今の部屋の状態には合うだろう。」


『今の部屋の状態』とは、私が一時的に飾り付けたリビングの事だ。
テーブルクロスやクッションカバー、壁掛けなど、取り敢えずは有り合わせのもので何とか見栄え良く飾った、あの部屋。
でも、それはあくまで一時的なものだと思っていたから、シュラ様がそれを考慮する必要はないのに。
シュラ様の好みで揃えたラグやカーテンに合わせて、小物のカバーなどは新しいものを縫うつもりなのだから。


「今のお部屋の事は気にせず、お好きなものを買ってください。それに合わせて、飾り付けも変えますし。」
「いや、良いんだ。今のあの部屋が気に入っている。今まで、あまり気にしていなかったが、俺はああいう青い色調で揃えられた部屋が落ち着くらしい。このラグなら、今の部屋の雰囲気を損ねないだろうし、これくらい濃い色なら、多少汚れても目立たんだろうからな。」


そのラグは濃い青、インディゴブルーとか藍色に近い、深い青色をしていた。
ただし、黒味の強い暗めの藍色ではなく、パッと目を惹く鮮やかな藍が、波のようなグラデーションを作っている。
確かに、ソファーに置かれているクッションの淡いブルーのカバーや、色味の違う二色の淡いブルーの布を重ねて作ったテーブルクロスにも合うだろう。
淡い青ばかりでは寂しい部屋の様子も、この目の覚めるブルーのラグを床に広げれば、きっと今以上に見栄えのする素敵な部屋に変わるに違いない。


「今はもう、汚れの事は気になさらなくても良いですよ。私がキチッとお掃除しますから。」
「そうか……。今はアンヌがいてくれるのだったな。ならば、汚し放題だ。」
「いえ、そんなに汚されても困るのですが……。」


一体、何をどうして、ラグをそんなに汚すつもりなのだろうと思ったけれど、それは聞かない事にした。
ただ、あの汗濡れのトレーニングウェア一式(下着含む)を、折角の新しいラグの上にだけは脱ぎ捨てないで欲しいと、心の奥で祈った。


「カーテンは……、向こう側か?」


二人並んで、見本のカーテンが展示されているコーナーへと移動する。
こちらも青い色のものを選ぶのかと思って見ていると、だが、シュラ様が手に取ったのは薄いグレーを基調としたシンプルな模様のカーテンだった。


「あまり青ばかりというのもな。胸焼けしてくるだろう?」
「言われてみれば、確かにそうですね。」


だが、既製品のカーテンでは、どれも丈が合わない事に気付く。
各宮のプライベートルームは、一般の住宅とは規格自体が違っているのだ。


「その一番大きなサイズのを買おう。」
「でも、長過ぎるのでは?」
「横幅は問題ないし、丈なら詰めれば良いだろう。出来るか、アンヌ?」
「えぇ。それくらいなら簡単です。」


ふと、その一言で、私はシュラ様から頼りにされているのだと気付く。
磨羯宮の女官として、部屋の扉の内側の事は、私に任されているのだ。
シュラ様の生活を支える存在として、私に出来る事は何でもやらなければならない。
出来ない事があっても、努力して遣り遂げなければならない。
改めて、そう思った瞬間だった。





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