よし、こうなったらアレだわ。
シュラ様が私をからかって楽しんでるというのなら、こっちだって反撃してしまえば良いのよ。
こんなにも私を翻弄してくれるのですもの、少しくらいチクリチクリと棘を刺したって問題ないわよね。
寧ろ、シュラ様って何だか鈍いし(他人のコトは言えないけれど)、多少の棘じゃ気付かずにスルーされてしまうかも。
よし、だったら……。


「明日は折角のお休みなのですから、私などと買物へ行くより、素敵な女性とデートにでも行かれた方が良いのではないのですか?」
「また、その話か……。前も言っただろう。女は面倒だ。無駄に疲れるだけではないか。」


思った通りの返答。
こうもハッキリ言い切られてしまうと、女嫌いなのかと誤解してしまいそうだけど、実際はそうではないのよね。
この人は無駄な労力を遣いたくないだけ、想う相手以外には一切の時間を割かない。


「シュラ様に群がってくるような女官達の話ではありません。シュラ様にだって想う方くらい、いらっしゃるのでしょう? だったら、休日にでもデートにお誘いするとかしなきゃ、振り向いてもらえないのではないのですか?」
「っ?!」


その切れ長の瞳を見開いて、私の方を凝視するシュラ様。
何て分かり易いのだろう、この人は。
如何にも「どうして知っている?」とでも言いた気に、驚いた表情でコチラを見ている。


「アンヌ……。」
「はい。」
「どうして俺に想う相手がいると決め付ける?」
「それは……。あの、昨日、偶然に聞いてしまいまして。デスマスク様とアフロディーテ様の会話を……。」
「そう、か…。」


ふと顔を曇らせたかと思うと、シュラ様は視線を逸らして、手にしていた自分のマグカップをジッと眺めた。
何だか身体の力が抜けて脱力してしまったかのようにも見える彼に、私はちょっと心配になる。
もしかして……、やり過ぎたって事はないわよ、ね?


「どの程度、知っている?」
「はぁ……。あの、シュラ様に想う方がいらっしゃるという事くらいしか……。」
「そう、か……。」


ゴトリ、カップをテーブルの上に置いた音が響き、次いでシュラ様が再び、私へと視線を戻す。
と、その顔にはデスマスク様にも似たふてぶてしさを大いに漂わせた、余裕たっぷり、自信満々な微笑。


流石は黄金聖闘士様、あの程度ではビクともしなかったのね。
全く……、あの一瞬の曇り顔は何だったのだろう?
これは、もっともっと鋭い棘をお見舞いして上げない事には理解しない、そういう事だ。


「デートに誘えと言われてもな。買物だって遅かれ早かれ行かなければなるまい。いつまでもこのままというのは困るのだろう?」
「まぁ、そうですけど……。あ、でも、ほら。何も明日に限った事ではなくて、例えば、執務が終わった後にディナーに誘うとか、ランチを一緒に食べようと誘ってみるとか。こんな風に毎日、そそくさと自宮に帰ってくるのではなく、空いた時間は有効利用して積極的にいかないと。ただでさえ、あまり時間の取れない忙しさなのですから、それくらいの努力なしには、相手の方も振り向かないですよ?」
「時間の有効利用、か……。」


シュラ様は少し考え込んだように、やや首を傾げた後、私の方をチラッと横目で流し見た。
いや、そこで私に視線を向ける意味が分からないんですけど。
その流し目は止めてください、心臓に悪いですから。
ただでさえ早い心音が、余計にバクバクと早鐘を打ち出す程の威力。
どうせなら、その凄まじい破壊力、私などではなく、心に想う方へ向けて発揮すれば良いのにと、ひっそりと心の中で思った。





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