それにしても……。


シュラ様が留守ではなかったのに、この部屋の状態。
それはつまり、泥棒が入ったのではないという事。
だって、今、シュラ様は平然とこの部屋の中を歩いていたし。


という事は……。


「すまない、アンヌ。待たせた。」


戻って来たシュラ様は、ハーフパンツ一枚の姿で、上半身には何も身に着けていなかった。
さっきとあまり変わらない気がしないでもないが、この際、それには目を瞑ろう。
アイオロス様やアイオリア様は年中、上半身裸のままでトレーニングしてるし、あれとあまり変わらないと思えば、何も問題はないわ。
そうよ、直視しなければ良いだけの事。


「今日から宜しく頼む。ココの事は、アンヌの好きなようにやって良い。」
「は、はぁ……。」
「とりあえず、座ったらどうだ?」
「座れと言われましても………。」


座れそうな場所が、何処にも見当たらない。
目の前にソファーはあるが、その上には本やら雑誌やら、脱いだ後ものか洗濯後のものか分からない衣服やら、その他、普通はソファーの上には置いてないであろう物が山積みで、それらの物陰から押し潰されたクッションらしき影がチラリと見えている。
何をどうしたって、ココには座れない、座れるスペースがない。


それどころか、ソファーの前のテーブルの上も、更には、その下の床の上にも、空いたスペースが何処にもない。
言ってしまえば、このリビングの中の全てがゴチャゴチャに置かれた『物』に占拠されて、足の踏み場もない状態だ。
思い返せば、さっきシュラ様が現れた時、床に散乱し積み上げられた物などお構いなしに、ズカズカとその上を歩いていたっけ。


という事は、だ。
この部屋の状態は、もしかして、これで『普段通り』だと……、そういう事なの?


「座るところがないなら、作れば良い。多少、面倒だが……。」
「は……?」


そう言うなり、唖然とする私の視界の中、ソファーの前まで移動してきたシュラ様は、上に積まれた物の一角に手を掛けて……。


――ガシャッ! ガシャガシャッ! ドシャッ!


ひ、ひいぃぃぃっ!
な、何?!
シュラ様って、こんなに乱暴な方だったの?!


私の目の前で、そのソファーに乗っていた物を一気に払い落とすと、シュラ様は空いたソファーのスペースを満足そうにポンポンと叩いた。
えっと、それはそこに座れという事ですか?
私としては、今、床の上に払い落とされた物が大丈夫なのか、そちらの方が酷く心配なのですが……。


「座る場所が出来たぞ。」
「は、はぁ……。あの、ありがとうございます。」


恐る恐る、ソファーの空いたスペースに腰を掛ける。
何だか部屋が埃臭いような気がするのは、気のせいだろうか?
いや、きっと気のせいじゃない。
何より、カーテンを閉め切っているのが、それをより強調してるように思う。


「あの……、カーテン開けないんですか? 暗いですよね?」
「面倒だ。」
「は……?」


さっきも面倒だって言ってたけど、また面倒だって言ったよ、ね?
シュラ様って、実は面倒臭がりなの?!
そうなの?!


「ライトを点ければ良いだろう。わざわざカーテンを開け閉めする必要もあるまい。」
「は、はぁ……。」


そう言って、私の目の前のテーブルの上を何やら探すシュラ様。
しかし、目当てのものはなかなか見つからず、暫く無言でアチコチを探した後。
漸く床の上から見つけたリモコンをピッと押すと、またそれをポイッと適当に投げ捨てた。
同時に部屋の中が光に包まれ、パッと明るくなる。


まだ午前中だと言うのに、煌々と照る電球の灯りを見上げながら、私は確信した。
そう、シュラ様は、重度の『片付けられない症候群』なのだと。



→第2話へ続く


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