この夜。
シュラ様の閨は呆れる程に執拗だった。


明日は朝早いのだからと言っても、厳しい任務に備えて体調を万全にと言っても、全く聞く耳を持たなくて。
それどころか、明日から暫くの間は、私の身体に触れられないからと言い返し、更には、こちらが無理だと訴えても右から左に受け流し、重い体重を預けて圧し掛かってくる始末。
兎に角、激しく濃厚な行為が、真夜中過ぎまで何度も続けられたのだ。
当然の如く、翌日の私は、身体を起き上がらせるのにも精一杯だった。


「何故、そんなにゲッソリした顔をしている? 数日間は会えんのだ。もう少しニッコリと笑って送り出せんのか。」
「ゲッソリしているのは、誰のせいだと思っているんですか、誰の。」


本当に、何処までも自己中なのだから、この人は。
そんな我が儘に多少の文句は返せど、最終的には全てを許し、受け入れてしまう自分。
今では、自分の中の何もかも、この人が中心なのだ。
自己中で、我が儘で、真っ直ぐで、クールに見えて情熱的で、そして、ブレない一途さを持つシュラ様。
そんな彼が、私の心の真ん中に、確固たるものとして、ずっと在り続けている。


「いってらっしゃいませ、シュラ様。貴方の御無事を祈っております。」
「あのようなもの、直ぐに始末して戻ってくる。そしたら……。」
「??」


スッと屈められた上半身。
耳元に近付く端正な顔。
涼しい目元と、真剣な表情はそのままで。


「昨夜以上に激しく深く、お前と抱き合いたい、アンヌ。」
「っ?!」


掠れた低い声が零れ落ち、耳の奥を擽った。
ゾワリと背骨の下から上まで走り抜ける痺れ。
未だ、彼に与えられた快感の名残を潜めた身体に、また新たなざわめきを刻み込むように吐息まで吐き出し、そのまま彼は耳の縁と、頬にキスを落とすと、ヒラリ、軽やかに背を向けた。


私は呆然と、ただただ呆然と立ち竦んだままだった。
だが、シュラ様が階段を下り始め、その頭が私よりも低くなったのが見えた時、ハッとして声を上げていた。


「し、シュラ様っ!」


足を止め、クルリと振り返った顔は、怪訝そうに眉を寄せている。
私は彼から見えるように、大きく手を振った。
昨夜、酷使した腰がズキリと痛んだが、それをおくびにも出さずに、大きく声を張り上げた。


「怪我は勿論ですけど、風邪を引かないように温かくしていてください! それと、ちゃんとした食事を摂ってくださいね! 卵の丸飲みとか、生野菜を齧るだけとかは駄目ですよ、絶対に!」
「あぁ、分かった。」


まるで子供を送り出すお母さんみたいな台詞だ。
でも、放っておくと、何処ぞの野生児のように、マトモな寝床も用意せず、マトモな食事も摂らない人だ。
言ったところで、聞く耳を持たないのだが、それでも、何も言わないでいるよりは良い。
無駄でも念押しは必要だった。


きっとシュラ様も、私の言葉が母親のようだと思ったのだろう。
フッと軽い笑みを口の端に浮かべてから、小さく手を上げる。
刹那の短い時間、目と目が合った。
それで十分だった。
シュラ様はコクリと小さく、それでいて力強く頷いてみせると、そのまま背を向けて、今度こそ真っ直ぐに十二宮を下っていった。
その足取りは軽く、颯爽としていた。


先程、この宮を通り抜けていったアフロディーテ様は、先に行っていると言った。
きっと十二宮の登り口、白羊宮を抜けたところか、もしくは、もっと先、聖域の入口辺りで待っているのだろう。
私が彼を見送る時間の邪魔をしないように、と。
そんな心遣いが嬉しかった。





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