「シュラ様、お願いです! 直ぐ傍までとは言いません! 離れたところからでも良いのです! お願いします!」
「無茶だ、アンヌ。例え離れた場所でも、お前に危害が及ばないとは言い切れん。」


でも私は、そこに歩美さんがいるのなら、行かなければいけないのだと、強く思う。
どうしてかと問われれば、明確な答えは返せないけれど、彼女の傍に行かなければならない。
そして、何が起きているのか、どんな結末が待っているのか、この目で全てを見守らなければならない。
そんな使命感のようなものを感じているのだ。


「アンヌ。俺はお前を危険に近付けるような事はしたくない。頼むから、ココで待機していてくれ。戻ってくる俺達のためにも。」
「嫌です!」
「アンヌっ!」


なるべく穏やかに私を宮の中へと押し返そうとするシュラ様だったが、ガンとして譲らない私の、徐々に加熱する勢いに釣られて、彼の語気も次第に上がっていく。
鋭い視線に、苛立ちの籠もった声。
一瞬だけビクリと身体が竦みはしたが、それでおめおめと引き下がる訳にはいかなかった。
歯を食い縛り、目を逸らさぬよう必死でシュラ様を見上げる。


「まぁまぁ、少し落ち着け。」
「だが、アイオロス……。」


ポンと一つ、背後からシュラ様の肩を叩いたアイオロス様は、苦く、それでいて穏やかな笑みを浮かべていた。
その場に残っていたのは、私達の他には彼一人だけ。
皆を先に小滝へと向かわせ、自身は最後尾から周囲の様子を探りつつ、現場に向かうつもりだったのだろう。
しかし、そこで思い掛けず、私達が喧嘩、というか言い合いを始めてしまったため、見るに見かねて仲裁に入ったようだった。


「別に連れていっても問題ないんじゃないのか?」
「しかし、何が起こるか分からない場所に、一般人を連れていくのは危険過ぎる。」
「アンヌは遠くからでも良いと言ってるんだから。そうだな、ムウにアンヌの傍を離れないよう、俺が指示する。それでどうだ?」
「だが……。」
「上手く彼女を救出する事が出来たなら、女手が必要になるかもしれない。怪我を負っているかもしれない女性に対し、無骨な俺達だけでは、少々、心許ないのだが?」
「…………。」


シュラ様の返答はなく、代わりに大きな溜息。
どうやらシュラ様の方が折れたようだ。
あの頑固な彼を、こうも簡単に言い包めてしまうとは、流石はアイオロス様です。


「さぁ、話が着いたのなら、俺達も行こう。」
「……はぁ、仕方ないな。行くぞ、アンヌ。」
「は、はい。」


諦め半分、差し出されたシュラ様の手を取ると、その腕の中へと横抱きに抱え上げられる。
後はただ、本日、幾度目かの疾走に、身を任せるばかりだ。


黄金聖闘士の速さならば、小滝までの距離などホンの一瞬。
なのに、この時ばかりは、近い筈のその距離がヤケに遠く長く感じた。
辺りが既に闇に包まれていて、あまり視界が効かないせいもあるのかもしれない。
同じ一瞬でも、昼の明るさの中と、夜の暗さの中では感覚が違ってくる。


私はシュラ様のシャツを、無意識にギュッと強く握り締めていた。
どうか歩美さんが無事でありますように。
心の中で祈り願いながら、彼の身体にしがみ付いていた。





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