2.恐れていた事態



それから、数度の捜索を繰り返し、外は夕闇に包まれ始めていた。
歩美さんの姿を、この聖域内の何処にも見つけられないまま、刻々と時間だけが過ぎていく。
流石に疲労の色が見え始めたシュラ様達を労(ネギラ)うために、私は獅子宮のキッチンを借りて、軽く摘める程度の軽食を用意した。


正直、徐々に焦燥感の増していくアイオリア様の様子を、見ていられなくなったというのもある。
これがシュラ様ならば、大体の苛立ちは、何かお腹に入れて空腹感が薄れさえすれば、多少は和らいでくる筈なのだけれども。
そう思って、一口サイズにカットしたサンドイッチを、数種類の具材で作ってみた。
だが、アイオリア様はシュラ様とは根本的に精神の作りが違っている。
どうやら、物を食べるという気力すら起きないようで、彼は小さな溜息と共に、数切れを口の中へ放り込むだけに止まった。


「あの……、アイオリア様?」
「あ、あぁ。すまない、アンヌ。折角、用意してくれたのに。だが、彼女が何も食べていないかもしれないと思うと、自分だけ食事を摂るのは、どうも気が引けてな。」
「あ、そうですよね。私こそ、すみません。気が利かなくて……。」
「アイオリア。気持ちは分かりますが、貴方はちゃんと食べてください。シッカリと体力を蓄えておかなければ、いざという時に、役に立てなくなりますよ。」
「それに彼女が見つかれば、抱えて戻るのはお前の役目だ、アイオリア。それまで、お前に倒れられては困る。」
「一食抜いた程度で倒れる程、ヤワではないと思っているが……。」


そうは言いつつ、気を遣って掛けてくれた仲間の言葉を無碍に出来ない、それがアイオリア様の優しさ。
気が進まないながらもサンドイッチに手を伸ばし、喉を通らない時は、ミネラルウォーターで飲み下す。
そうして、結局、彼は用意したサンドイッチを全て平らげた。


「……もう一度、彼女を捜しに行こう。」
「ですが、アイオリア。もう外は暗い。闇雲な捜索は、賛成しかねます。」
「なら、どうしろと言うのだ? このまま朝まで何もせず、黙って待っていろと?」
「そうではありません。彼女を捜す事に反対はない。ですが、ただ何の考えもなく捜し回る事は、時間も体力も無駄になる、そう思っただけです。」


ムウ様の言う事にも一理ある。
何の当てもなく捜すには、この聖域の敷地は広大過ぎるのだ。
歩美さんは一般人であるが故に、小宇宙も辿れない。
だけど、先程も同じように考えて、日本に関係しそうな場所から重点的に捜したけれど、結局、ヒントになるものすら発見出来なかった。


「ならば、お前は何か策を持っているのか、ムウ?」
「私は何もありません。ですが、カミュがアイオロスに呼ばれたと聞いています。きっと、そろそろ何らかの情報を持って戻って来る頃ではないかと……。」


まさに、ムウ様が、そう言い終わるか終わらないかのタイミングだった。
ヒヤリと冷たい空気を纏ったカミュ様が、この獅子宮のリビングへと、静かに姿を現した。
その顔は明らかに浮かない様子で、暗く曇っている。
そして、そこに居たアイオリア様の顔を見た瞬間、少し気まずそうに目を逸らしたのが、妙に印象的だった。





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